第5回目は、イラストレーター櫻井志保さん(@_brush_brush_)宅のリノベマンションを訪問。間取りを大幅に変えることなく、建具や細かいパーツ選びに自身のこだわりを詰め込んだそうです。

HOUSTO 編集部

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ツレヅレハナコさんプロフィール

食と酒と旅を愛する文筆家・料理研究家。書籍、雑誌、WEBなどへの寄稿やレシピ提案だけでなく、調理器具のプロデュースなども手掛ける。『女ひとり、家を建てる』(河出書房新社)『まいにち酒ごはん日記』(幻冬舎)、『世界の現地ごはん帖』(光文社)、『47歳、ゆる晩酌はじめました。』(KADOKAWA)など著書も多数。
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櫻井志保さん宅のプロフィール

住まいの種別:リノベマンション
築年数:32年
床面積:約110㎡
施工会社:非公開
間取り:4LDK
家族:夫、娘(13歳)、息子(10歳)、猫2匹

ひな壇型マンションに憧れて。理想の物件を見つけ、空きを待って入居しました

ツレヅレハナコさん(以下 ハナコ):お邪魔します! リビングダイニングが広くて気持ちがいいですね〜。緑も見えるし、とても低層階とは思えない。

櫻井志保さん(以下 櫻井):うちは傾斜地マンション。リビングがある南側と、寝室のある北側で景色がまったく違うんです。リビングからは眺望がよいけれど、寝室側は敷地内パーキングです。

ハナコ:フロアは同じはずなのになんだか不思議ですね。得した気分! 以前のお住まいは?

櫻井:元々は新築分譲マンションに住んでいたのですが、こどもが大きくなってきて手狭になり、もっと広い部屋に住みたいなという思いから今の住まい探しがスタートしています。マンションを売却し、次の住まいを探しながら賃貸暮らしをしていました。たまたま今のマンションを通りがかったとき、外観に一目惚れ。

ハナコ:そういえば屋根のかたちが独特で、素敵だなーと思いながらピンポンしました!

櫻井:古いマンションを買うなら、外観もある程度好きになれないと。中はいくらでも好きに変えられるからいいんですけど、外はいじれないですから。

ハナコ:そうですよね、家に帰ってきて外観があまりにも…だとテンションが上がらない気がする。

先にマンションを売却し、賃貸で待っていたからこそすぐに動けた

櫻井:あとは私、ちょっとしたひな壇型マンションマニアなんです(笑)。ここはひな壇というほどでもないんですが、傾斜がある大規模マンション。今住んでいる号棟が売りに出されるのを、ずっとチェックして待っていました。空きが出たのは2020年3月です。

ハナコ:ひな壇型マンションを探すという発想は今まで聞いたことがなかったです! ちょうどコロナ禍の始まり、緊急事態宣言が出た頃か。すでに賃貸だったなら気持ちに余裕を持って探せるというか、気に入ったところが空くまでとことん待てるかもしれませんね。

櫻井:はい、宣言が明けてまだ売れ残っていたら内見に行こうと決めていて。その前に他の号棟や違う階もいろいろ見ていたのですが、今の部屋は内見してすぐ決めました。いや、見る前からほぼ買うと決めていたかも(笑)。

ハナコ:リフォーム前はどんな状態だったんですか?

櫻井:一度リフォームされていたようでした。どうしても抜けない壁があるせいで、新築当時と間取りはほぼ同じ。私たちもスケルトンにはせず、間取りは大きくは変えませんでした。ただ、キッチンは独立型だったのをL字型に変更。あとはドアを撤去したり、コネクティングルームになっていた部分のドアを壁に変えたりした程度ですね。

ハナコ:リビングに続く部屋はお仕事スペース?

櫻井:そうです。デスクに座ったときに背面になる壁には収納をつくりました。可動棚を設置していて、仕事道具や書籍を保管しています。この入り口にもドアはつけず、薄いカーテンで仕切るだけ。

ハナコ:収納たっぷり、しかもリビングダイニングからは死角になるのはいいですね。本棚には楳図かずお先生の『おろち』が。シブい!

ベースは白と木目、グレーでシンプルに。パーツは真鍮の質感にこだわりを持って

ハナコ:リノベでここだけは譲れなかった部分はどんなところでしょう?

櫻井:間取りを変えないぶん、建具やドアノブ、スイッチ、コンセントなど細かいパーツ選びにはずいぶん時間をかけました。

ハナコ:あちこちに真鍮が使われていて、いい感じですね!

櫻井:よくあるシルバーのパーツを使いたくなかったんです。部屋全体のテーマは、「古さが味に感じられる」こと。リノベ当時はコロナ禍であまり外出できなかったから、ネット通販で取り寄せ、施主支給しました。

ハナコ:真鍮なら、時を重ねてもいい味を出してくれそう。

櫻井:建具はひとつ増やすだけで見積もりがかなり変わってくるので、不要だと思うドアは思い切って撤去。廊下からダイニングにつながるドア、リビングと仕事部屋の間のドアはなくしました。その代わり、残すドアはデザインや色、ノブそれぞれにこだわりを詰め込んでいます。玄関のシュークローゼットの扉もそうです。

築30年前後のマンションは、贅沢なつくりが多いかも

ハナコ:玄関の素敵な照明も真鍮製ですね! そして一般的なマンションより玄関がかなり広い気がするんですが。

櫻井:築32年だからか、最近のマンションより間取りにゆとりがある気がしています。今でもじゅうぶん広いですが、それでも正面の壁を30cmほど手前にずらしたんです。この壁の奥が浴室で、壁を前にずらせばもう一回り大きい浴槽を設置できると言われたので。

ハナコ:昔のマンションのほうが贅沢なつくりで、建具などもいいものを使っていたと聞いたことがあります。

櫻井:棟じたいがそれほど大きいわけではないのですが、1フロア2部屋でどちらも角部屋。天井も高いし、広めのバルコニーもついています。

ハナコ:壁のスイッチが可愛い! 押しやすくてクセになる〜

櫻井:ハリウッド映画に出てくるような、大きいアメリカンスイッチにしたくて。つけ替えられるところはすべてこのタイプのスイッチにしています。

ハナコ:細かいところまでこだわりが詰まっているんですね。そういえば、家を建てた知り合いのカメラマンさんは「マイナスのねじしか使わない」というポリシーを持っていたなぁ。アメリカ製のパーツやヴィンテージ家具のねじはほぼマイナスなんだそうです。その方はこだわりが強すぎるあまり、CAD(コンピュータ上で設計や製図を行うツール)の使い方を覚えて自分で設計図を書いてしまった強者(笑)。

櫻井:その方の気持ち、分かる気がします。私もこだわりが強いほうなので、一戸建てはムリかも。マンションは部屋の中だけ考えればいいですが、一戸建ての場合は外観もあるから悩みすぎて決まる気がしません(笑)。

全室無垢フローリングは諦め、個室だけ木目調のフロアタイルでコスト削減

ハナコ:逆に、予算の関係で妥協したところはありますか?

櫻井:床材ですね。リビングダイニングは無垢材を選んでいて、節などを生かしたラスティックフローリングです。これなら多少傷がついてもあまり目立ちません。本当は全室同じ素材にしたかったのですが、コスト的に断念。各部屋はヘリンボーンの木目調フロアタイルにしました。

ハナコ:えっ、これフロアタイルなんですか? 全然分からなかった。色味もかなり近いですね。

櫻井:なるべく近い色を選びました。細いタイルを組んでいくから、通常のフロアタイルより施工費は高くなると思います。でも無垢材に比べると大幅にコストダウンできたかも?

ハナコ:今は新しい素材がいろいろ出ているんですね。勉強になる!

櫻井:壁紙も妥協したポイントです。本当は塗装壁にしたかったけれど、予算の関係で塗装ずみの壁紙を使うことにしました。「エコフリース」という商品です。不織布に水性塗料が塗られていて、見た目はほとんど塗装壁と同じ。私は表面がサラッとしたエンボスがないタイプを選んだので、猫の爪が引っかかりにくいのは思いがけずよかった点!

ハナコ:猫は壁で爪研ぎするからな〜。わが家もやられています。ここはバリバリしがいのない壁ですね(笑)。

家具はヴィンテージを中心に。生活用品は実用性とデザイン性を兼ね備えたもの選び

ハナコ:インテリアのこだわりについても教えてください。

櫻井:ベースになっているのはダイニングテーブル奥のキャビネットで、マンションを購入して最初に買った家具です。イギリスのヴィンテージ。

ハナコ:経年変化するようなものやテイストがお好きなんですね! ヴィンテージ、納得。

櫻井:このキャビネットに合わせて他の家具もそろえました。ダイニングテーブルは、既製品でいいものが見つからなかったのでオーダー。天板は佐官屋さん、脚は家具屋さんに具体的なサイズやイメージを伝えてつくってもらいました。キャビネットもキッチンも四角なので、ダイニングテーブルは丸くして空間を中和させたいなと。テーブルの天板はビールストーンという佐官塗材。中に入れる貝や石の種類も選べるんですよ。

ハナコ:へぇー、素敵! 脚はしっかり4本あるけど、椅子4脚がきちんと入るのもいいですね。

櫻井:テーブルの脚は「inahono products」という家具屋さんにつくってもらいました。重い天板を支えられる太さ、それからテーブルの下もロボット掃除機が通れるような設計にしています。

ハナコ:テーブルの横はすぐキッチン。L字は使いやすそうだし、洗濯機、洗面所、浴室と一直線になっているから家事ラク動線ですね。お、ゴミ箱は「EKO」ですね。私も同じものを使ってます!

櫻井:ホントですか! ゴミ箱は出しっぱなしでも気にならないデザインを選びました。フタが両開きなので、ゴミ箱から上の棚板までの高さを抑えることができるところもいいですね。手をかざすと開閉するセンサータイプ(左)は以前から使っていて、このマンションに入居するときペダル式(右2台)を買い足しました。センサータイプは便利なのですが、上の棚板に反応して時々勝手に開いてしまうのが気になって。そのうちペダル式に買い替えようと思っています。

ハナコ:なるほど。私はペダル式です。家を建てるときは、このゴミ箱を使う前提でぴったりおさまる棚を造作してもらいました。底にキャスターがついているから、正面の持ち手を引くとスーッと引き出せるのもいいんですよね〜。ずっと使い続けるつもりなので販売中止にならないといいな。壊れたときの保険でもう1台、今のうちに買っておこうと思ってるくらいお気に入りです。

ハナコの取材後記

ドアノブや持ち手、建具と細かいパーツにひとつひとつこだわっていらしたのがすごく印象的でした。私が家を建てたときのことを思い返すと、細かいところは四の次、五の次くらいだったなぁ…。市販の一般的な建具を選んだとしても、取っ手を変えるだけで自分好みに仕立てられるというのはリノベの大きな魅力。経年変化が出るパーツや木材の数々、どれも素敵でした!

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