海のそばで生まれ、雄大な山の風景に憧れ続けた夫妻が選択した地方移住。「好きな場所で暮らすことの自由と楽しさを多くの人に知ってもらいたい」。経験とノウハウを伝授する「移住コンシェルジュ」として活躍するアクティブな女性の暮らしぶりを伺いました。
住人プロフィール
山下美鈴
移住コンシェルジュ
一戸建て注文住宅3LDK+オフィス(133㎡)
長野県安曇野市
築・入居7年
家族3人暮らし
「北アルプスを眺めて暮らしたい」と移住を決意
7年前、故郷の和歌山県から、長野県安曇野市へ家族で移住した山下美鈴さん。パートナーは建築家の山下和希さんで、普段は自宅に併設された設計事務所「アトリエ・アースワーク」のアシスタントを務めています。
旅行が趣味だという山下夫妻は、山が大好き。休日には信州をはじめ、岐阜県や山梨県へも足を伸ばしていたそうです。2人のお気に入りは、北アルプスの雄大な風景。
「海の近くで生まれ育ったので、いつかは大好きな山の近くで暮らしてみたい。信州への旅を重ねるたびに、その思いは強くなり、移住を意識するようになりました。幸い、建築家という夫の職種柄、どこで暮らしても仕事はできます。『人生は一度きり。好きな場所で暮らしたい! 思いきって北アルプスがどーんと見える家を建てよう』と夫婦で夢を語り合い、さっそく動き出しました」(山下美鈴さん、以下同)。
いざ移住を決意すると、さまざまな縁がつながって、土地探しもトントン拍子に進んだそう。東京や関西へのアクセスもいい安曇野市で理想的な土地を手に入れ、北アルプスが遠望できるマイホームを建てたのです。移住への構想をはじめてから約3年後のことでした。
主役は北アルプスの借景。シンプルさを極めた北欧スタイルの住まい
山下さんの家は、住居スペースの床レベルを玄関先から1m上げ、西側の景観がよく見えるように工夫されています。居室へは、玄関から階段を上がるアプローチ。打ち合わせスペースとダイニングに設えた大きな窓からは、のどかな田園風景を一望。天気がいい日は北アルプスの稜線がくっきりと見えます。
「この家の主役は何といっても北アルプスの借景。敬遠されがちな西側に大きな窓を設えたのは、何にも遮られず、風景を室内からも楽しめるようにするため。季節によって変化する山々の美しさには、本当に癒されますよ。ぼんやりと眺めているだけでリラックスできます。インテリアは、夫が得意とする北欧スタイル。落ち着いた無垢材を使い、光量のバランスをはかった照明レイアウトが特徴です。実は、信州移住を決める前には、北欧に移住したいと考えていて。さまざまな理由で断念しましたが、日本で北欧の風土に近い場所を探した結果、ここ安曇野になったという経緯もあります」。
安曇野暮らしの素晴らしさを伝える「移住コンシェルジュ」という生き方
山下さんは、移住計画をスタートさせるのと同時に、信州のポータルサイトでブログを公開。移住の経緯、進捗などを綴るうちに、サイト上でさまざまな交流が生まれ、人の輪が繋がっていきました。
「引っ越してからは、何気ない安曇野の暮らしをブログで公開していたんです。すると、『いつか私も移住したい』という人から連絡が来るようになって。メールは増え続け、『旅行で信州へ行くので直接相談に乗ってほしい』という依頼も受けるようになりました。やがて、市や県が主催する移住セミナーで講演を頼まれるようになり、気がついたらすっかり移住の相談役に。現在は、ボランティアで移住コンシェルジュとして活動をしています」。
これまで山下さんが移住相談を受けた数十組の相談者のうち、約3分の1にあたる20組が信州への移住を決意。移住者同士のグループをオーガナイズし、新しいコミュニティづくりにも一役買っています。
「移住者同士で仲良くなって、旅行へ行ったり、パーティーをしたり。干し柿づくりやりんご収穫のお手伝いなど、地元の人を交えたワークショップも盛んに行われています。子育ての悩みや、地域での相談ごとを打ち明けあったりもして、みなさんとてもいい関係を築いているようですよ。移住前には想像もしなかった繋がりがどんどん広がって、とても嬉しく感じています」。
仕事・趣味・ボランティア。大人のセカンドライフを満喫できる家
「この家は夫の作品としてモデルルームも兼ねています。移住と家づくりの相談にお客様がお越しになることも多いので、建築の美しさが際立つように、モノはすべてすっきりと収納し、整えることを心がけています」。
その言葉通り、この家の収納計画はかなり秀逸。見せる収納・隠す収納のバランスがほどよく、階段下のオープンスペースも上手に活用されています。その一部に、何やら不思議な瓶やボックスが集められた一角が……。
「夫と私の共通の趣味は、クワガタムシとカブトムシを育てることなんです。おがくずとキノコの菌を混ぜ合わせて菌床をつくり、そこに幼虫を入れて大切に育てているんですよ。題して“家庭虫園”。子育ても終盤に近づき、何かを育てる楽しみをシフトさせているのかもしれません(笑)」。
「見知らぬ土地への移住は勇気があるね、とよく言われます。安曇野に引っ越した当初は、新入りなんだという気持ちで、地域になじめるように、とにかく歩いてどこかへ行くように心がけました。すると、すれ違う方々がきさくに声をかけてくださるんです。閉鎖的な印象を抱かれがちな信州の人々ですが、自分からどんどん入っていけば、温かく迎えてくれるんだとわかってきました。今では玄関に採れたての野菜が置いてあったりして。近所の方々とはとてもいい関係を築いています。地方移住、いいですよ。いつでもご相談ください!」
移住コンシェルジュというライフワーク、夫のサポート、共通の趣味。人生のセカンドステージに地方移住で建てた家は、大人の夢を実現した、まさにドリームハウスでした。