暮らす人と一緒に楽しむセルフリノベーション。廃材も活かしてつくり上げたオリジナル収納は、ここだけの特別な世界観に満ちていました。
坂田裕貴さん
「cacco design studio」代表・「HandiHouse project」共同主宰
施主と一緒に家をつくる建築家集団
坂田さんはフリーランスの建築家ですが、仲間4人で立ち上げた「HandiHouse project」としても活動中。設計から工事まですべてのプロセスにおいて、施主と一緒に家づくりをするというこのユニークな建築家集団は、いま注目を集めています。
「合言葉は、“妄想から打ち上げまで”。家づくりを通し、僕らと施主さんがチームになって盛り上がっていこう、という考え方です。家づくりを他人任せにせず、自分たちの手で行うことによって、どこにもないオリジナリティと愛着が生まれるんですよ」(坂田さん)。
今回、坂田さんが「HandiHouse project」として初期に手掛けた個人宅を取材させていただきました。映像ディレクターの高木聡さん一家が暮らす、東京郊外のリノベーションハウスです。
映像ディレクターをDIYの達人にさせた家
「築45年。もともとは医院だったという家で、敷地も建物も、すごく広いんですよ。そして施主の高木さんは、最高に個性的(笑)。彼の持つ世界観をそのまま表現したリノベーションです。ドアや狭い仕切りが嫌だということで、ほとんど取っ払ってしまいました」(坂田さん)。
坂田さんと作業をする間にスキルを身につけ、すっかりDIYにはまってしまったという施主の高木さん。工事で出る廃材を使って、セルフビルドする楽しさに目覚めてしまったそうです。手すりや、収納家具など、さまざまなものを自分でつくってしまいました。
「つくる工期よりも、住む時間のほうが長い。工期は学校だ、と言われて。すっかりその気にさせられました(笑)。それがいまも生きている。ここに住んでいると、あれもこれも足すことがへっちゃらになりましたね」(高木さん)。
必要になったら、その都度更新できる収納
リノベーションをする上で、クローゼットをつくるなど、収納スペースの計画はありませんでした。施主が必要だと思ったところに、入れるものに適した収納スペースをその都度つくるというのが、坂田さんの進め方です。
「欲しくなったときに、自分の手で収納を更新していけるって、よくないですか? 高木さんも、自分で本棚や下駄箱をつくって僕らを驚かせてくれるんです」(坂田さん)。
モノづくりのインスピレーションを、施主さんと共有できるのはとても楽しい、と坂田さん。
がんばらなくてもサマになる暮らしを目指して
見せる収納、見せない収納。坂田さんの発想は、そのどちらでもないといいます。
「全部かっこいいモノに囲まれて、きっちり収納するって、なかなか難しい。僕は、がんばらなくてもサマになる環境、まさに、この高木さんのお宅のような暮らし方がかっこいいと思うんです。いい意味で、生活感がある見せ方なんですね」(坂田さん)。
「うちの場合は、しまうのが苦手っていうのもあるけど(笑)。でも、暮らすって、かっこつけるだけでは片付かないことがたくさんある。自分の家で疲れちゃったら仕方ないしね。だから自分でつくって行けるって、すごく楽しいし、気分がいいんです」(高木さん)。
生活感も、かっこいいものも、すべてを受け入れてくれるのが、自作の収納。そこには、暮らしのなかの緩さを適度に許していけるマインドが込められていると、坂田さんは考えます。
「自然とそういうマインドでいられる人の家には人が集まるし、いい空気感に満ちていると思います」(坂田さん)。
施主も一緒につくるリノベーションハウス。そこには、住む人が自分の手で更新していくという、斬新な収納スタイルがありました。