シンプルさにとことんこだわる建築家が、自らの理想を実現させた新築一軒家。収納設計で生活感を限りなく消した、見せない収納の好例に出合いました。
福田充弘さん
「三宅建築設計事務所」勤務
白を基調にした、コンパクトミニマルな一軒家
都内の設計事務所で、店舗、オフィス、工場など、さまざまな用途の建築を手がけている福田充弘さん。
昨年の10月、念願のマイホームが竣工しました。設計はもちろん、ご自身で。工事中も職人さんたちと各所の納まりを打合せしながら進めた、愛着のある家です。
「自宅はシンプルに造りたいと考えていました。白を基調とした空間からは、できるだけ無駄な要素をそぎ落としつつも、住宅としての機能を確保し、また、光や風をうまく取り入れる家としています。かつ、コストをかけずに仕上げることがテーマだったので、既製品もうまく使いながら、バランスをとって仕上げました」(福田さん、以下同)。
南側に壁を建てて中庭を設け、外からの視線をほとんど遮ったその家は、まるで白い要塞。建坪14とコンパクトながら、狭さをまったく感じさせません。現在は奥様と2人ですが、家族が増えてもゆとりある暮らしが楽しめそうです。
キッチンは、見せない収納をとことん極めて
福田さんの自宅設計は、すなわち収納設計でもありました。散らかりやすいものを見えないように収納する、という考え方ではなく、暮らしのノイズそのものを収納できる家。
「たとえば日用品など、散らかりやすいものが家の中のノイズだということは多くの人が理解されていることだと思いますが、私は、家電が起こす生活感もノイズだと考えています。家電の存在感って、実はすごいんですよね。そこで、この家では、なるべくそうしたノイズを消すことを考えました。エアコンも天井にビルトイン型にして、キッチン関係の家電も、思い切って全部見せないようにしてしまおう、と」。
ペニンシュラキッチンの背面は、実はキッチンの一部。引き戸の中には、冷蔵庫や電子レンジなどのキッチン家電とパントリーが隠されていたのです。
用途によって、見せる収納・見せない収納を使い分ける
福田さんのお宅の玄関は、土間仕上げ。土間続きのシューズクローゼットは、あえて見せる収納として造られました。
「ここは玄関から誰の目にも触れる部分でもあるので、きれいに靴を置こうという意識が生まれます。また、靴の保管は、通気性の良さが大切。ここだけは、見せる収納として毎日整えています。将来的に子どもが増えたら、棚を増やすこともできます。ここにはそのままベビーカーも置けますし、土間は便利ですよ」と福田さん。
一方、玄関の正面に位置する洗面所は、徹底した見せない収納でした。洗面カウンター横には、収納を兼ねた仕切り壁があります。このなかには、タオルや洗剤などが収納してあります。そして、この壁を利用して、洗濯機が見えないようになっていました。
「洗濯機も、存在感の大きな家電ですよね。仕切りを付けることで、目立たなくし、洗面所の印象を変えることができたと思います」。
家事動線を考えた2階の構造
2階に上がると、縁側のようなサンルームがありました。天井からは黒いハンガーパイプが吊り下げられています。ここは、福田家にとっての家事コーナー。1階で洗濯したものを2階へ運んで干し、アイロンをして、ワードローブへしまう。こうした家事動線がスムーズに進むよう、収納も考えて造られていました。
「使いたいものが、使いたいときにさっと取り出せるかどうかが、収納の鍵だと思うんですよね。1階はくつろぐ場所、2階は家事とプライベートと決めていたので、家事専用の収納棚はここに必要だな、と思って造りました」。
生活感を消すと、旅をしているような気持ちになる
生活感を消すために、見せない収納を造る。しかし、その見せない収納の中は散らかってしまう……というパターンもありますが、福田さんの収納は、まったく違いました。収納の中もきちんとカテゴリ分けされ、整っているのです。なぜこんなに収納がお上手なのでしょうか。
「子どもの頃から、散らかっているのが嫌いなタイプでした。ムダが嫌いというか。片付けが好きというわけではなく、整理されていたら、単純に使いやすいですよね。自分の実験的建築物としてどこまでムダが削ぎ落とせるかを考え、収納については、見た目が気になる取手も全部なくしました。特にリビングは、どうしても目に入るキッチンを整理できたので、気に入っています。思い切って生活感を消してみると、毎日がホテル暮らしをしているような快適さがあります。その快適さを維持したい思いで掃除をする、いい循環が生まれているんですよ」。
自分の家が、まるでホテルのようにすっきり整っていたら……。誰もが憧れる暮らしを実現している福田さん。徹底的にシンプルさにこだわった家は、やはり収納テクニックもハイレベルでした。