職人家系の建築家と、大工さんを父に持つ奥様。二人三脚で設計に取り組む夫妻が建てたばかりの邸宅を取材するため、三重県桑名市を訪れました。リビングに大きな開口部とテラスを要するユニークな家に施された、家族のための収納アイデアとは。
後藤孝さん
「後藤建築設計」代表
借景を活かしたアウトドアリビングが印象的。建築家の新たな住まい
愛知県から三重県にかけて自然素材にこだわった個人住宅を手掛けている建築家の後藤孝さん。職人家系の父親の跡を継ぎ、設計事務所を運営しています。アトリエは名古屋市内に構えていますが、昨年、地元の三重県桑名市にマイホームを建てました。
「妻も大工の娘で、同じような境遇で育った人。仕事上のよきパートナーでもあります。自邸も、相談しながら進めました。自分たちの家ですから、ある程度実験的に、いろいろ試してみよう、と。コンセプトは、『繋ぐ家』です。1階には店舗として使用できるギャラリーと和室を設け、街と日本の文化を家に繋ぐ。LDKは2階にありますが、大きなテラスを中心に据えることで、自然と家とを繋ぐ…という感じです」(後藤さん、以下同)。
後藤さんの言葉通り、家族が集う2階のLDKの中央には、贅沢なまでに大きなテラスが設けられていました。西側にある緑を借景に、開口部からは光と風が通り抜けます。居住空間は、テラスを取り囲むようなL字型。ガラス戸を開け放てばアウトドアリビングと化し、全体を広々と使うことができます。
オーダーのアイランドキッチン、子育て世代に嬉しい収納の工夫
「お客様には、収納を集約したい方・それぞれの場所に欲しい方、両方のタイプがいます。僕たちも以前のマンション暮らしでは、一つの部屋をつぶしてファミリークローゼットにしていました。それはそれで使い勝手もよかったのですが、今回は、適材適所にそれぞれ収納をつくってみよう、と。どちらも体験することで、提案もしやすくなりますから」。
適材適所の収納にしたことで、「グッと便利になった」と奥様が感じているのがキッチン。オーダーした大きなアイランドキッチンは、作業もしやすく、収納力も抜群です。シンクの反対側の収納棚には、子どもたちも率先して食器をお片付けしてくれるとか。
さらにキッチンには、後藤さんのアイデアによる収納の工夫がもう一つ。
「パントリーとキッチンの間に一つ仕切りを設けて、裏側は磁石塗料を塗りました。以前は冷蔵庫にいっぱいに貼ってあった子どもたちのプリント類も、ここで整理しています。パントリーを開いていても丸見えになることはありません」。
子どもたちの気配が感じられる、リビング続きのキッズスペース
奥様からは「リビングを通って子ども部屋に行けるようにして欲しい」という要望があったそうで、リビングのすぐ隣にキッズスペースが設けてありました。普段は仕切りとなる引き戸は開け放たれています。
造作テーブルを設えた学習コーナー、その隣が子どもたちの共用クローゼット。それらを挟んで、お子さん2人のために、東西に一つずつ個室が振り分けてありました。
「ランドセルなど、子どもたちの荷物は、1階玄関脇のクローゼットに置いた方がいいかな、とも考えましたが、結局、宿題をするのは2階。勉強道具もすべて自分で管理できるように、キッズスペースはメインフロアにまとめることにしました。普段は学習コーナーや共用クローゼットに子どもたちのおもちゃや本などが流出していますが、来客時は引き戸を閉めれば隠せるのでOK(笑)」。
収納はおおらかに楽しんで、家族のコミュニケーションを
玄関と2階のプライベート空間には、暮らしをスムーズにする収納の工夫を散りばめた後藤さんの家。一方、パブリック要素の強い1階には、小さな和室と、ギャラリースペースが用意してありました。
「和の文化を子どもたちに伝えたくて、お茶室に見立てた和室をつくりました。来客があった際は、まず躙口から和室に通し、形式ばらず気楽な気分でお茶やコーヒーをお出しして、リラックスしていただくんです。また、外からアプローチできるギャラリースペースも、さまざまなワークショップに活用しています」。
一つの家の中で、メリハリのある空間の仕分け方を楽しんでいる後藤さん。自邸づくりを通して、収納についても改めて考えるよい機会を得たと話します。
「わが家の収納設計で実際に感じたのは、『お客様の場合は客観視できるが、自分たちの収納は難しい』ということ(笑)。結局、見せる収納、隠す収納を両方用意して、ものの位置を決めつつ、でも神経質になりすぎず、ラフにできるがいいのかな、と。家族が増えれば、捨てられないものも増えていきますよね。家族で、ああでもない、こうでもないと話しながら、その都度整理したり、見直したりすること、そんなコミュニケーションが楽しめる、おおらかな収納スタイルが、僕たちには合っているように思います」。
これは必要? 捨ててもいい?
―――思い切って捨てようか。
―――大切にとっておこうよ。
収納を介して繰り広げる、他愛もない会話。そんなコミュニケーションが、家族の思い出をつくっていくのだと、後藤さんは教えてくれました。