注文住宅やリノベーションで可動棚を取り入れてみたい……。でも、本当にわが家に向いている?生活スタイルや物件による向き・不向きがあるのかどうか、家づくりのプロである建築士さんに詳しく教えてもらいました。家づくりやリノベ検討中の方必見!
ズボラな人ほど可動棚が向いている!
可動棚とは、棚板を上下に自由に動かせる棚のこと。棚板が動かせるので、高さや枚数を自由に変更できるのが最大のメリットです。大きく分類すると、棚板の背面の壁に棚柱を設置する背面サポート型、棚板の両側にある壁に棚柱を設置する側面サポート型の2種類があります。
「棚板を動かせるということは、収納するものを選ばないということ。そこに置きたいものに合わせて高さを変えればいいので、収納スペースの使い勝手が格段にアップします」と、可動棚を使って建築することの多い一級建築士・橋本さんは語ります。
新築工事やリノベーションを行う際は、間取りなどの設計を中心に考えることが多く、収納計画は後回しになってしまいやすいもの。また、収納家具や造作棚を用意するところまでは考えられても、何をどう収納するか具体的にイメージするのはなかなか難しいものです。
一級建築士・橋本さん
可動棚なら入居後にいくらでも収納するモノの変更が可能です。だから収納計画を事前に決めきれないというズボラさんに向いている気がします。模様替えを頻繁にしたい人、置くものが定期的に変わりそうな人にももちろんおすすめです
扉のない収納だから、間取りへの影響も最小限!
可動棚は備えつけのクローゼットと違い、扉がないのも大きな特徴のひとつ。
一級建築士・橋本さん
扉ありの収納は、ドアなど建具に干渉しないかどうか間取りの細かい調整が必要になってきます。可動棚はそれがないぶん、収納スペースをどこにつくるか比較的自由に選べる可能性が高いです。また扉を開ける、閉めるという動作がなくなってラクになるし、中身がすべて見渡せるので何がどこにあるか一目瞭然。こまごましたものを収納するパントリーやリビングクローゼットを可動棚にすれば、スムーズにものの出し入れができそうです。探しものが減るし、家族から『あれどこ?』と何度も聞かれることもなくなるはず。ただオープンな収納は雑然と見えてしまうこともあるので、リビングダイニングの場合は死角になる場所に可動棚を設置するのがよいでしょう
可動棚の取り付けにおすすめなのは「こども部屋」 その理由とは?
棚板の高さが変えられること。それが可動棚の大きなメリットです。それを最大限に生かせるのはこども部屋だと、橋本さんは語ります。
一級建築士・橋本さん
整理収納には、ものを出し入れしやすい高さ=ゴールデンゾーンという考え方があります。一般的には目線から腰の位置。つまり、どんどん身長が伸びるこどもはゴールデンゾーンも成長とともに変わっていくということです。可動棚なら、使いやすい位置にいつでも棚板を動かすことができます
それに、こども部屋に置くものはおもちゃ、絵本、勉強道具、書籍、趣味のものなど年齢によって少しずつ変化していきます。衣類だってそう。
一級建築士・橋本さん
可動棚にはハンガーパイプを設置することができ、さらに上下に動かすことも可能です。これは既製品の家具や備えつけクローゼットと大きく異なる点。服が取りやすい高さにハンガーパイプを動かすことができるし、ワンピースなど丈の長い服が増えても高さを調節しやすくなります
また、狭小住宅やマンションでこども部屋の広さを確保できないようなケースにも可動棚が向いているといいます。
一級建築士・橋本さん
可動棚は、比較的狭い部屋でも開放感を感じられるのが大きなメリットなんです。一般的なクローゼットと違い、横壁と扉がないのがその理由。たとえばコンパクトな4.5畳の部屋に扉つきクローゼットをつくると、ベッドを置いただけで圧迫感を感じてしまうかもしれません。でも可動棚なら、横壁と扉がないぶん空間の広がりを感じやすくなる。ベッドに加えて学習机を置くくらいのスペースを確保することができますよ
趣味部屋にこそ、可動棚。奥行も自由に選べる
こども部屋のほかに、可動棚と相性のいい場所も聞いてみました。
一級建築士・橋本さん
趣味が多い方には、個室に可動棚の設置を提案することがよくあります。フィギュア、漫画やアニメ、DIY、アウトドア、洋裁など、趣味の内容によっては収納するものがとても多くなるからです。ものが入れ替わることもよくあるのでは? 可動棚なら棚板の高さや数を調整することができるので、管理と整理収納がラクになりますよ
収納するもののサイズや重さが多岐に渡るなら、奥行を変えられる背面サポートタイプの可動棚が特におすすめだそう。
一級建築士・橋本さん
背面の壁で棚板を支える背面サポートは、棚板の奥行が固定されないという特徴があります。たとえば小さくて軽いものの収納には奥行15cmの棚板を、やや大きいものには奥行き25cmの棚板を利用する、というふうに高さだけでなく奥行も選べるため、収納の自由度がより高くなるのです
マンションや狭小住宅に可動棚を設置すれば、開放感がアップ
こども部屋でも触れたように、コンパクトなマンションや小さな部屋と可動棚は相性抜群です。
一級建築士・橋本さん
収納スペースをつくりたいけれど部屋が狭い、収納家具を置きたいけれど圧迫感が出てしまいそう。そんなときに可動棚は最適なのではないでしょうか。床面には家具を置いて、上部のスペースに部分的に可動棚を設置すれば、空間がフルに使えるようになりますよ
可動棚を設置する際のポイントは?
最後に、可動棚の設置計画を立てる際に知っておくといいポイントをいくつか教えていただきました。
リフォーム時に下地を仕込むのが大前提
一級建築士・橋本さん
まず、可動棚を設置するには壁に下地が入っていることが大前提となります。石膏ボードの壁には取り付けられません。可動棚の棚柱を設置したい場所、設置するかもしれない場所には新築やリフォームの工事中に下地をあらかじめ入れておいてもらいましょう
下地は、構造用合板をクロスなどの下に設置することになりますが、それなりに費用がかかります。建築・リノベ予算にあまり余裕がない場合は、下地と棚柱を優先して棚板の設置を後回しにするのもアリ。また可動棚メーカーの専用棚板を使わなくとも、後からホームセンターなどで木材を購入してブラケットを取り付けることも可能です。
棚板の外側をフルに使う「縦長収納」もおすすめ
続いては、パントリーやウォークインクローゼットのような、半個室のようなスペースに可動棚を設置するケース。
一級建築士・橋本さん
壁面の端っこギリギリまで棚板を設置するより、15cmほどスペースを空けて設置してみてはいかがでしょうか。空いたスペースに、カメラの三脚や釣竿など長さのあるものを立てかけて収納することができて便利ですよ
可動棚にプラスして使いたい、おすすめの収納アイテム
可動棚の便利な使い方、おすすめの収納方法も教えてもらいました。
一級建築士・橋本さん
腰ぐらいから下にはあえて棚板を設置せず、引き出し式ケースを置く使い方です。下のスペースは立ったまま手が届かないため、いちいち屈んで棚板を覗き込み、ものを出し入れする必要があるんです。この動作を面倒に感じるなら、引き出し式のケースを使ってみては。ケースを引き出し、上から中身を確認できるので腰への負担を軽減できます。引き出し式ケースはたたんだ衣類やタオル類、下着、日用品の収納に特におすすめですよ
可動棚は持ちもの、暮らしの変化に強い!
一級建築士・橋本さん
可動棚の特性を知れば、その特徴を最大限に生かせる使い方も自ずと見えてきます。今後ライフスタイルの変化や科学技術の進化がさらに進めば、ものがサイズダウンしたり、もの自体が不要になることもあるかもしれません。そうなると、ものの持ち方、収納の仕方も変わってくるはずです。そんな“変化”にも対応しやすいのが可動棚。新築やリノベーションを検討しているなら、ぜひ候補に入れてみてくださいね