今回お話を伺ったのは菓子店「素果子」店主の半田葉子さん。国内外を転々とし、さまざまな職を経験して得たものは、頑張りすぎず自然体でいること。心と体、そして環境にやさしく生きるための取捨選択について教えていただきました。

HOUSTO 編集部

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とことん自分の内面と向き合った20代、30代。今が一番、自分らしい

素材の味を楽しむ菓子店「素果子」の店主として、日々スイーツづくりに勤しむ半田さん。店を立ち上げるまでは会社員を経てカフェ運営、雑貨店勤務など、国内外を転々としながら働く暮らしを送ってきました。

「人生での大きな転換期は、大学4年生のころ。パニック障害を発症し、電車に乗ることすら怖くなってしまったのです。病院にも行きましたが、自律神経失調症と診断されてもあまりピンと来ませんでした。なぜこうなってしまったんだろう?とたくさん悩んで調べ、自分のことについて深く考えるようになったのです」

その過程で半田さんは「自分より他人を優先してしまう」「何事も完璧にこなしたい」という気持ちがとても強いことに気づいたそうです。

「それが自分を苦しめている原因だと頭では分かっていても、心や体がすぐ別の方向に舵を切れるかどうかは別問題。気持ちが身体の限界を超えて気を失ってしまうことも何度もありました。そこから少しずつ脱出できるようになったのは、自然と触れ合う機会が増えてからです」

「自然に寄り添いたい」原体験は小学生時代に

小学生時代から環境問題について少なからず興味を持っていたという半田さん。川の上流から下流まで、リトマス試験紙でpHを計るなどの水質実験を行なった自由研究は今でも心に強く残っているといいます。

「下流になるほど水質が悪化するのを目の当たりにして、大きなショックを受けました。思えば、これが『自然に寄り添いたい』という今の私をつくり上げた原体験だったのかもしれません。自分としっかり向き合った20代には、ヨガやマクロビオティック、サーフィンやドルフィンスイムとの出合いがありました。会社を辞め、30代で地方や海外を転々とするプチ移住生活中は農家さんと接する機会が増えました。さまざまな人と交流し、それぞれの考え方に触れることで、『自然と食べ物はつながっているんだ』と心から実感することができたのです」

「◯◯すべき」という思考を手放したら、暮らしを楽しめるように

以前の半田さんは「◯◯をしなければならない」「◯◯を食べてはいけない」など、自分で定めた制約に縛られているような生活でした。カフェ運営に携わる中で、食業界の光と影を見てしまったせいだろうと振り返ります。

「私は結局、何がしたいんだろう? 本当は何が食べたいんだろう? 自分の心が分からない、そんな状態でした。でも、◯◯すべきという思考を手放したら気持ちがスッとラクになって。流れに身を任せているほうがいいのかもしれない。とことん自分の内面と向き合い、多くの人との出会いを経てそう思えるようになったからだと思います。今は自身に制約を課したり、自分の思いを人に押しつけたり、人に合わせて無理したりすることはなくなりました。肩の力の抜き方が少しずつ分かってきたのかもしれません」

そして2019年、「素果子」を立ち上げます。お菓子づくりを選んだのは、未来をつくるこどもたちとそのお母さんたちに伝えたい思いがあるから。カフェ時代に親子の食ワークショップを多数開催し、手応えを感じていたことも理由のひとつです。

素果子の代表的なスイーツ。マクロビオティックやヴィーガンの考え方をベースに、古代小麦や国産米粉、有機メープルシロップなど植物性の素材を使用してつくっている。クラシックショコラ(左上)も乳製品やチョコレート不使用

「女性は甘いものを好む人が多いし、こどもたちもお菓子が大好き。食べることの大切さ、体にも自然にも優しい素材でつくった食のおいしさ。それを広く伝えたいと思っています」

お茶を淹れること、お風呂に入ること。ひとりの時間に心を整えます

半田さんにとって大切なのは、ひとりで過ごす時間。心を落ち着かせて、何かに没頭する時間です。中国茶・台湾茶に携わる機会が増えてきたこともあり、お茶を淹れる時間は特に大切にしています。

「特別なときや、一息つきたい日の午前中にはきちんとセッティングしてお茶を淹れます。中国茶・台湾茶は4煎目、5煎目まで楽しめることが多いので、気づけば1時間以上経っていることも。自分と対話しているような感覚です。これは毎日できることではありませんが、お湯は毎朝沸かして白湯を飲み、必ず一息つくことにしています」

朝の白湯時間では余分にもう1杯つくり、キャビネット上のご先祖コーナーにお供えします。神棚でも仏壇でもないけれど、『大切な人たちにとって今日もいい日になるよう見守ってください』と手を合わせるそう

お風呂にゆっくり浸かることも、欠かせない習慣です。体調や気分に合わせて入浴のお供を選んでいます。使うものは自然由来で、環境にも肌にも優しいものばかり。

「デトックスしたいときは塩、汗が気になるときは重曹、潤いがほしいときは砂糖やクエン酸。ここぞ、というときは蓬(よもぎ)です。お茶パックに無農薬の蓬パウダーを入れています。身体洗いタオルは和太布とびわこふきんです」

心掛けているのは、「足るを知る」。いつも身軽でいたい

半田さんの自分軸は、今までもこれからも自然に寄り添った暮らしを送ること。自分が納得できるものを無理のない範囲で選び、スイーツづくりを通してその思いをシェアしていきたいと話します。

「今は利便性のいい場所に住んでいますが、もっと自然に囲まれている地域へ移りたいという気持ちもあります。お菓子工房と自宅を兼ねた住まいを、いつか実現できればいいなという思いです。そのためにも、ものをあまり持たずに身軽でいたい。わが家には炊飯器も電子レンジもありません。あると便利だけれど、自分の暮らしに必要性を感じないものは持たないようにしているんです。『足るを知る』。台湾茶道の師匠が教えてくれたこの言葉は、いつも心に留めています」

半田さんの暮らしの工夫

なるべく家具は買わない。りんご木箱を棚がわりに

キッチン背面ではりんご箱を重ねて棚がわりにし、鍋や調理家電を収納しています。また引越しするかも?と考えると、大きな家具を持つのは心の負担に。りんご箱ならそれほどかさばらず、引越しの際は段ボール不要でそのまま箱として持ち運べるので一石二鳥です。玄関にも同じくりんご箱を置いて収納スペースをつくっています。

今回教えてもらったのは……

  • 半田葉子さん
    vegan菓子「素果子」店主。ヴィーガンやマクロビオティックの考え方をベースにお菓子づくりを行い、主にオンラインで販売。そのほか、中国茶と茶器の専門店「LEAFMANIA」で中国茶と素果子のお菓子を楽しむ夜のお菓子茶会を月2回担当している。

    https://sugashi-shop.stores.jp/

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