今回登場するのは、手づくり暮らし研究家でハンドメイド服ブランド「FU-KO basics」を主宰する美濃羽まゆみさん。手づくりを日々の生活に取り入れた、ていねいなライフスタイルに憧れを抱く人も多いですが、美濃羽さん自身は「ええ加減にする」ことが暮らしを楽しむ秘訣だと言います。その理由や大切にしていることについてお話を伺いました。
京町家に住んで17年。古いモノ、シンプルなモノにより惹かれるようになりました
美濃羽さんは京都生まれ、京都育ち。今も京町家で家族4人暮らしです。今の家に越してきたのは、上の娘さんが生まれたタイミングだったそう。
「以前の住まいよりは広くなりましたが、町家は造りつけの収納が少なめです。モノが収まりきらないし、大きい家具を置くことも難しい。モノ持ちだったので、越してきた当初はずいぶん悩みました。結局、出しっぱなしが一番ラクでわかりやすいということに気づいたんです。でも、色や柄が派手すぎると目が疲れてしまうから、だんだんシンプルなものを選ぶようになっていきました」
美濃羽さんの家では、自然素材のかごが収納用品として大きな役割を果たしています。
「かごはいろいろな場所で使い回しができます。もともと大好きでしたが、京町家の雰囲気によく馴染むので、ここに越してからは使い勝手がさらによくなりました。今も古道具店を訪れたり、不用品としてゴミに出されていたかごをもらってくることも。東京出張の際は、カゴアミドリというかご専門店へよく足を運んでいます」
「便利さ」は二の次。 モノがどこから来て、どうやって終わるのかに意識を向けたい
美濃羽さんが大切にしている言葉、それは「始末」です。
「モノや出来事には、必ず始まりと終わりがある。モノなら、どんな人がどこでつくり、どうやって生まれたかに思いを馳せます。気持ちよく使って、お別れをするところまでがセット。終わりを意識してこそモノが生きてくるし、『ありがたいな』と思って最後まで使い切ることができると私は考えています」
服や雑貨、保存食など、暮らしにまつわるさまざまなモノを手づくりしている美濃羽さんならではの視点です。何事にも始末を意識している美濃羽さんの家には、「ただ便利なだけ」のモノはほとんどありません。
「欲しいと思ったその場では役に立つのかもしれませんが、すぐ不要になることも多い。一瞬の便利さしか考えられていないモノはなるべく使わないようにしています。家電も同じで、炊飯器や大きな掃除機、除湿機や加湿器もわが家にはありません」
子育てにも始末の考え方を生かしているという美濃羽さん。
「こどもとぶつかったり、腹が立ったりすることももちろんあります。でもいつかは家を出て独立するもの。一緒に過ごせる時間は限られています。縁あって美濃羽家に生まれてきてくれたのだから、今は笑って楽しく暮らしたいと思っているんです」
買い物には時間をかけない。手仕事は手間をかける過程を楽しんでいます
主宰するFU-KO basicsで受注生産した服を製作。手縫い教室を開催したり、暮らしや手づくり品の著書を出版したりと、美濃羽さんの毎日は目まぐるしく過ぎていきます。時間のやりくりはどのように?
「買い物に時間はかけません。食材は家の近所にある店で購入するし、契約している食材宅配会社から週1回、定番のおいしい野菜が届きます。靴下や肌着も長年同じブランドをリピート。探して歩き回る時間や悩む時間を減らせば、その分好きなことに時間を使える気がしているんです」
美濃羽さんが時間を使いたいことのひとつ、それは季節の手仕事。梅干し、味噌、山椒やらっきょうなど1年じゅう何かを仕込んでいます。
「つくるのに手間と時間はかかりますが、楽しむことも目的のひとつだから苦になりません。それに毎日のごはんづくりで大活躍しているので、結局は私の家事時間を節約してくれていることになります」
ちょっとぐらいええ加減でもいい。ギチギチにやらず、目指すは80点です
美濃羽さんのモットーは、完璧を求めすぎないこと。ご自身の言葉で言うと、「ええ加減に、ギチギチにやらない」ことです。
「適度に肩の力を抜いて、自分のゴールを高くし過ぎないようにしています。気に入らない点はいくらでも出てくるし、自分ではできたと思っても、まわりの評価が伴わない場合だってある。悩んでいるときは自分を責めているだけで、何も生まれません。できないことやできていないことを探すのではなく、できていることに目を向けようと常々思っています」
日記を開き「これはできた」「これも達成した」と、書いたことをひとつずつ消していくのは、長年変わらない美濃羽さんの日課です。
一仕事終えた夕方には、キッチンで晩酌タイム。
「自宅で仕事をする時間が長く、暮らしと仕事が一体化しています。だからこそ、晩酌はホッと一息つける瞬間。お酒がおいしく飲めるように1日をがんばっているようなものですね」
これから取り組みたいのは、手縫い教室の開催をさらに増やしていくこと。
「私自身、FU-KO basicsをこれほど長く続けられるとは夢にも思っていませんでした。全国4ヵ所で定期的に開催してきた展示会は少しずつ縮小し、いずれは受注生産販売を終了するつもりなんです」
これまでは美濃羽さん自身がつくったものを届けることがメインでした。でもこれからは、つくること自体の楽しさを広く伝えていきたいと話します。
「FU-KO basicsの製品を求めてくださるお客様がたくさんいらっしゃるのは、とてもありがたいこと。黙々と服をつくっている時間も大好きです。でも私は事業を大きくしたいのではなくて、つくる体験を届けたい。そのことに最近気づきました。私にとって、手づくりは暮らしそのもの。少しずつ形を変えながら、手づくりを通して自分なりの幸せの形をつくっていきたいです」
美濃羽さんの暮らしの工夫
古新聞は何通りにも使う
新聞紙は万能で、収納にも掃除にも使い回せます。新聞紙を折ってつくった箱は野菜くず入れにしたり、生ごみの水を切ったりとキッチンで活躍。他にも窓を拭く、何かを包むのにも使っています。新聞紙のおかげで専用の掃除アイテムやキッチングッズを買わずに済んでいるのかもしれません。
よく使うものは吊るす。省スペースとわかりやすさを両立
京町家は台所が狭いのが難点。収納家具を置けないので、ざるやかご、フライパンなどは吊るして収納しています。よく乾くし、見つけやすくて一石二鳥。わが家では何でも吊るしていて、ティッシュケースや野菜かごもフックで引っかけてあります。
今回教えてもらったのは……
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美濃羽まゆみさん
手づくり暮らし研究家。ブランド「FU-KO basics」を立ち上げ、手づくり服の受注販売を行うほか手縫い教室を実施。著書は子ども服、大人服、手縫い小物などの洋裁本ほか、暮らしにまつわる本も多数。