今回、暮らしの取捨選択に登場するのは雑貨店「日用美」店主の浅川あやさん。地元の人はもちろん、全国各地から根強いファンが足繁く通う人気店です。働くことと暮らすこと、両者のバランスの取り方などについてお話しいただきました。

HOUSTO 編集部

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住む場所が変わっても、持ち物はほとんど変わりません

雑貨店「日用美」は、神奈川県二宮町の静かな住宅街にあります。約3年前に2度目のオープンを果たしました。同じ敷地内には自宅住居も。

「以前は鎌倉に店を構えていたのですが、もっと自然豊かな場所に身を置きたいと思ったのが転居の大きな理由です。きっかけは息子が通っていた、『ごかんのもり』という逗子の保育園。山の中にあって、畑で野菜をパクッと摘んで食べたり、アースオーブン(薪窯)でピザを焼いたり。とても自由で豊かな環境でした。息子は葉っぱを宝物のようにたくさん拾い、園のコンポストに入れていましたが、一方で帰宅すると家の前の道路に落ちている葉っぱはゴミ捨て場に捨てられてしまう。息子は戸惑ったでしょうし、私自身もそんな暮らしに矛盾を感じるように。それで引っ越しを決めたのです」

鎌倉の住居兼店舗を売却し、新たに土地探しからスタート。条件は、海と山と駅に近いことです。理想的な土地はなかなか見つからず、探し始めて2年ほど経ち、ようやく今の土地に出合いました。

「別荘として使われていたようでした。建っていた古家を取り壊して、新しく住居を設計。敷地内に元々あった洋館は残して改装し、店舗として使うことに。実は、新しく購入した家具はほとんどなし。前の家で使っていた家具を生かして設計したんです。若い頃から好みはあまり変わりません。使っていて味わい深くなるモノが好きですね。20年愛用している湯呑みもあります」

「日用美」に並ぶのは、ふと気づけば手に馴染み、日々の生活を彩ってくれるモノたち。器や雑貨、衣類、食品とさまざまなブランド、作家ものを取り扱っていますが、浅川さん自身が実際に使ってみて「いい」と感じたモノだけに厳選しています。

幸せって一体なんだろう? 会社員時代からぼんやり考えていました

浅川さんの1日は、コーヒーの香りとともに始まります。

「朝、家族が起き出してくる前に掃除を終わらせて、コーヒーを淹れるのがお決まり。ゆっくりする時間はありませんが、豆挽きのおいしいコーヒーを飲むと体にスイッチが入りますね」

新卒で就職した内装設計会社でがむしゃらに働いていたころ、浅川さんにとって家は寝るだけの空間。

「博物館や展示会の内装などスケールの大きい仕事が多かったので、身近な暮らしはおざなりになっていたなと感じます。学びは大きかったけれど、今後はもう少し自分の生活に寄り添ったインテリアの仕事をしていきたい。そう思い、30歳を過ぎてライフスタイルショップに転職しました。これが今の日用美のスタートだったかもしれませんね。私は仕事が大好きで、休日でも夜でも構わず働くタイプ。オン・オフの切り替えはあまり意識していません。自宅で料理しながらふと思いついて、作家さんに電話をかけたりショップに戻ったりすることもしょっちゅうです」

今の1週間のスケジュールは、日曜から火曜まで店頭に立ち、水曜は取材や打ち合わせ。木曜・金曜どちらかは店舗で販売するカステラを焼き、土曜はお休み。休日を利用して遠方の作家さんに会いに行くことも多いといいます。

「そういった出張はひとりではなく、家族みんなで行くことにしています。13歳の息子は、作り手と交流できる機会を楽しんでくれているよう。お付き合いのある作家さんと作品はだいたい把握しています。実際に愛用もしていて、木のスプーン作家、宮薗なつみさんの作るスプーンは特にお気に入り。息子は自宅で使うマイスプーンを、愛着を持って『みやぞの』と呼んでいます」

miyazono spoonのスプーンたち。一番右が、息子さんのマイスプーン

浅川さんが今最も大切にしていることは、家族の幸せ。会社員時代から「幸せって一体なんだろう?」とぼんやり考えていたそうですが、家族ができてからその答えを掴んだようです。

「まずは家族が幸せでいること。だからこそ私は思いきり好きな仕事ができるのだということに気づかされました。働きたいから、守る。家族や家という土台があって初めて、仕事に打ち込めるものなのかもしれないなと感じています」

卵や蜂蜜などの素材にとことんこだわった日用美のカステラはすぐに売り切れてしまう人気商品。切れ端は二度焼きしてラスクにし、お茶請けに

手放したのは、「自分がやらなければ」という責任感

会社員から店主へ、鎌倉から二宮へ。暮らし方と環境が少しずつ変化する中で、手放したモノもあります。それは、頑張るということに対して重責を感じること。

「自分がやらなければ、という変な責任感を感じることがなくなりましたね。会社員時代は、私個人は大きな歯車のひとつに過ぎませんでした。私がひとり抜けても、会社が回らなくなるようなことはありません。だからと言って自分の生活を犠牲にするのは、仕事に負けたように感じて嫌でした。でも今は違います。そんな気負いを感じることなく、『私にしかできないこと、私だからできることをしたい』という気持ちで楽しく働くことができています」

肩の荷が降りた感覚は、仕事面だけでなくプライベートでも感じているそう。

「息子は食べ盛りの中学生。以前の私ならご飯は毎日土鍋で炊きたいと思うところですが、『いつでも温かいご飯が食べたい』いう息子のために炊飯器を使うことにしました。今の家は、私の両親も同居していて5人暮らし。来客も多いので、手間を省くため食洗機を設置しています。家族みんながストレスなく過ごせることが第一。その優先順位がはっきりしていれば、私の小さなこだわりを譲ることは許容範囲です」

日用美で取り扱うTatsuro Maenoの磁器は、作家ものには珍しく食洗機や電子レンジOK。浅川さんも自宅でたくさん愛用しています

今後については、昨年よりも少しだけペースダウンするつもり。

「2023年は月2回展示を行っていた時期も多くて、今振り返れば企画を回すことに追われていました。今後はもう少し落ち着いて、新しい企画を練る時間をつくっていきたいですね。店の前に広い野外スペースがあるので、ここでアートを絡めた展示やワークショップを開催できないかと考え中です。ライブペイントをしてもいいかも! 庭の畑の野菜づくりにも、今年は力を入れたいんです」

浅川さんの暮らしの工夫

汚れが気になったら、箒でサッと掃き掃除

「掃除機も持っていますが、あまり使いません。気づいたときに簡単に掃除できるのが箒のいいところですね。店も箒で掃除します。愛用しているのは、米澤ほうき工房の箒です」

温めアイテムと天然素材で体を冷えから守る

「50歳を過ぎてからは体の変化をひしひしと感じるように。疲れを残さないためにも睡眠はしっかりとり、湯たんぽやレッグウォーマーで体を温めています。湯たんぽはFD STYLEのステンレス製。レッグウォーマーは真ん中がBella Terraのヒマラヤウール製。右は月樹舎のコットンシルク製で、草木染めが施されています。普段身につける衣類もコットンやシルク、ウールなどの天然素材が中心です」

今回教えてもらったのは……

  • 浅川あやさん
    セレクトショップ「日用美」店主。2020年、二宮町の自宅敷地内に店舗をリニューアルオープンする。月1回ペースで企画展示を行い、週1回の手づくりカステラ販売も好評。

    https://www.instagram.com/nichiyobi_asakawa/

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