今回の「暮らしの取捨選択」に登場するのは、フラワーデザイナーの戸川麻喜子さんです。夫とともに「花や 蔦ひつじ」を営み、フルオーダー受注やワークショップを開催しています。「休みをとれなくても、花に触れていれば毎日楽しい」と話す戸川さんが大切にしている考え方とは。詳しく教えていただきました。後編はこちら

HOUSTO 編集部

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店を構えてもうすぐ8年。コンセプトを持たないことがコンセプトです

神奈川県川崎市に店を構える「花や 蔦ひつじ」。住宅街の中に佇む小さなお店ですが、インスタグラムのフォロワー数は8万人を超え、フルオーダーの依頼から納品は最短で1ヶ月以上。ワークショップの申し込みは即日満席となり、キャンセル待ちが続くほどの人気です。

「オープンは2017年、夫の実家の生花店から独立するかたちでスタートしました。ここは日本最大の花き取扱量を誇る大田市場にアクセスしやすい、という理由で選んだ場所。縁もゆかりもなく、当時は最寄り駅周辺に6軒も花を扱う店があったため激戦区でした」

オープン当初は「らしさ」を追求し、奮闘していましたが、今は顧客や時代のニーズに応えられるよう店のコンセプトをあえて設けないスタイルです。

「こうじゃなきゃいけない、こんなものをつくって販売したい、という店からの発信ではなく、お客様からの要望にどう応えていくかを重視。あるときから強く意識していることです。今は生花を並べての販売はしておらず、事前予約でオーダーを受けるのみ。生花を仕入れて販売する販売職ではなく、仕入れた生花や植物で要望に沿う作品を創作する技術職にシフトしたということも影響しています」

店主であるご主人は甘すぎない雰囲気のデザインが得意ですが、戸川さん自身はどちらかというと可愛らしい花が好きなタイプ。店のコンセプトはもちろん、路線もあえて定めずお客様のリクエストを細かく聞きながら自分たちらしさを加えて創作してきました。

「一つひとつのオーダーに真剣に向き合い、創作したブーケやアレンジメントをインスタグラムに投稿。それを見たお客様が問い合わせてくれるというサイクルを幾度も重ね、ありがたいことにフォロワーさんが増えてきたのです。アカウントを開設した当初は、インスタグラムがここまで普及するなんてまったく想像していませんでした。お客様が今の蔦ひつじをつくり上げてくれたようなイメージですね」

戸川さん夫婦が手がけるブーケやスワッグは、くすんだ色合いの花やネイティブフラワーが多め。生花からドライになる花を中心に、始めからドライフラワーを使うこともよくあるそうです。店内の天井にはさまざまな種類のドライフラワーが吊るされており、壁のあちこちにもドライアップ中の花が飾ってあります。

「ドライフラワーの取り扱いが増えたのもお客様からの要望。豪華絢爛な花が好まれていた時代から、暮らしに寄り添う花が求められる時代に変わってきたという実感があります。等身大でインテリアになじみ、長く飾って楽しめる花たちです。そんな時流にうまく乗れたことも大きいかもしれません」

毎日同じことをするのは苦手。変わっていくことを楽しむ自分であり続けたい

早い段階で花の仕事に就くと決めていた戸川さん。学校卒業後すぐ生花店やホテルで働き始め、自分でチラシをつくり独自のフラワーレッスンを開催していました。その頃から「決まった時間に出社して規則正しく働く」ということに苦手意識を持っていたと言います。

「月水金は店勤務、別の曜日はホテルで生け込みの仕事、週末はフラワーレッスンというふうに、スケジュールを一定にしないで働いてきました。いつも違うことをしながら変化に満ちた暮らしを送るほうが性に合っているようです」

今の働き方もそれに近いスタイル。インスタグラム経由でブーケやスワッグのオーダーを受けて制作し、定期的にワークショップを開催。仕事の拠点は店ですが、手がける内容は日々異なります。

「ずっと変わらないのは、花に触れることだけです」

成長に合わせて、仕事と家族時間のバランスを調整していきたい

変化を好む戸川さんのライフスタイルは、1年ごとに更新。例えば2024年はこんな1年にしよう、このように過ごそうと考えて暮らしています。

今の仕事で将来の保証は何もなく、安定とはほど遠い生活であることは確か。でも、少なくとも今の私には選択肢があります、と話す戸川さん。

「こどもの学校行事に合わせて仕事を調整できること、自分らしくワークライフバランスを調整できること。多くの選択肢の中から私自身が決め、その道を歩んでいくことができます。それがたとえ遠回りでも、失敗だとしても、その責任をとるのは私。自分の人生を描くことができている、自分らしく生きられているという実感にもつながっています」

今は定休日がなく、花以外では自分のために使う時間もほとんどない状態。でも気の合う無骨なご主人と2人、好きな植物に触れ創作できる日々を心から楽しんでいます。

「幼い頃からの夢だった花のお店を構えることができ、今も続けられているのは、紛れもなく夫の存在があるからです。夫のことは、同じフラワーデザイナーとして一目置いています。2人で店を営めることが私にとっての幸せであり、守りたいと思っていることなのです」

お客様と時間を共有できるワークショップは、まるでお花好きが集まるオフ会のような空間。そんな空間をつくれることにも、戸川さんは生きがいを感じています。

今回教えてもらったのは……

  • 戸川麻喜子さん
    フラワーアーティスト。2017年に「花や 蔦ひつじ」をオープン。花束、アレンジ、ウェディングブーケ、スワッグ、ドライフラワーなどを事前予約制で制作。季節の花を使用し、インテリアになじむ作品をつくるワークショップも定期的に実施している。ヴィンテージ感のあるショップのインテリアにも定評あり。

    https://www.instagram.com/hanaya_tutahituji/

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