神奈川県川崎市にある「花や 蔦ひつじ」を夫婦で営む、フラワーデザイナーの戸川麻喜子さん。店頭では生花の販売を行なっておらず、ブーケやスワッグなどのオーダーを受けつける事前予約制です。後編では店としての考え方、仕事と日々の暮らしのバランスなどについて詳しくお伺いしています。前編はこちら。
フルオーダーにこだわるのは、顧客のこだわりを丁寧に拾っていきたいから
戸川さんは夫婦ともにフラワーデザイナー。店主であるご主人が花の仕入れとフルオーダー品の制作を主に担当し、麻喜子さんはワークショップやお客様対応を中心に請け負っています。
オーダーはほぼすべて、インスタグラムのDMを通して受注。予算やサイズ、希望のイメージ、使いたい花など、要望を細かくヒアリングしていきます。
「常に50人ほどと連絡をとっているような状態です。1件につきDMは何往復もするので、5件返信しただけで1時間が経ってしまっていることもあります。でも、私たちはお一人おひとりととことん話し合って双方納得のいくものをつくり上げたい。ポチッとボタンを押すだけで注文を受けられるオンラインショップは、ある意味ラクですが物足りなさも感じるのが正直なところです」
「お客様のこだわりを丁寧に拾っていくのが、私たちの仕事。短期間で依頼が殺到してしまう母の日ギフトとクリスマスギフトをのぞいてフルオーダーを貫いているのは、それが大きな理由です」
「花や 蔦ひつじ」の世界が大きく広がったと戸川さんが感じている転機は2018年。店のオープンから約1年後に、専門雑誌の取材を受けたことです。
「『フローリスト』という、花に携わる仕事をしている人なら誰もが知っている雑誌です。ニューオープンのフラワーショップ特集で声をかけていただきました。以前は読むモノだと思っていたのに、そこに自分の店が載るなんて夢のようでした」
以来、道が開けたように店は軌道に乗り、お客様のお問い合わせもどんどん増えたと感じています。
休みはまとめてとる。休業中はこどもたちと思いきり遊ぶ時間にしています
現在、「花や 蔦ひつじ」には決まった定休日がありません。DMやホームページを通しての依頼は、曜日を問わずどんどん入ってくるからです。
仕事が好き、花が好きという思いだけで走り続けていた戸川さん。でも3、4年前には睡眠時間が3時間ほどになるほど忙しくなり、体調を崩しやすくなってしまったそうです。
「普段はこどもたちを遊びに連れて行ってあげることもあまりできていません。働き詰めで2人のこどもと過ごす時間がなかなかつくれないことにも、申し訳なさも感じていました。だったらまとめて休もう!ということで、今はこどもの長期休暇に合わせて休業期間を設けています」
学校が夏休みに入る頃から8月末まで、クリスマス後の冬休みから1月いっぱいはオーダー受注を完全にストップ。DMの返信もお休みして、リフレッシュする時間をつくるようになりました。
「思いきって休むと宣言すると、お客様も快く受け入れてくれました。この夏は沖縄旅行へ行ったり、プールや川遊びを楽しんだりと自然を満喫。私自身もエネルギーを補給できました」
好きな仕事をずっと続けていくために、体づくりに力を入れていきたい
限られた時間の中で、これから大事にしたいと考えていること。それは体のメンテナンスです。
「私たちの仕事は体力勝負。体が資本です。ずっと働き続けていくためにも、もっと体を動かさなくてはならないと思っています。ウォーキングしたり、自分でトレーニングジムに通えればいいのですが、運動のために長時間を確保することはできません。だからパーソナルジムに通い効率よくトレーニングするつもりです。まずは1週間に1回でもいいから、思いきり運動する時間をつくりたいです」
戸川さんにとって大切なのは、変わらない日常より変化に富んだ刺激的な毎日。それは今も将来も変わらないようです。
「プランや店の方向性は、今後もあえて設けることはないと思います。決めないほうがうまく回っていくのではという思いも。フラワーデザイナーであることは変わりませんが、お客様や時代が求めるものがどんどん変化していくはずです。求められているモノをつくるのが仕事だから、技術を磨いて提供し続ける。その積み重ねしかありません。色調や店の雰囲気もこれから変わっていくと思いますが、その変化も含めて私自身が楽しんで仕事していけたらいいなと思っています」
今回教えてもらったのは……
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戸川麻喜子さん
フラワーアーティスト。2017年に「花や 蔦ひつじ」をオープン。花束、アレンジ、ウェディングブーケ、スワッグ、ドライフラワーなどを事前予約制で制作。季節の花を使用し、インテリアになじむ作品をつくるワークショップも定期的に実施している。ヴィンテージ感のあるショップのインテリアにも定評あり。