さまざまなジャンルで活躍する方々に自分らしさや自分軸について話を伺う連載企画、暮らしの取捨選択。今回お話を伺ったのは、メリノウールブランド「YARN」オーナーの下山陽子さんです。移住先であるニュージーランドを暮らしの拠点としながらも、仕事・精神面では日本とのつながりをずっと大切にしています。仕事や子育て、今後の暮らしについて詳しくお話しいただきました。前編はこちら

HOUSTO 編集部

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自然に囲まれ、個性を伸ばせる子育て環境を求めてニュージーランドへ

下山さんは現在ニュージーランドの代表的な都市・オークランドに暮らし、メリノウールのインナーウェアブランド「YARN」の代表として活動しています。

YARNの代表的なアイテムたち。レディースが中心ですが、中にはユニセックスで着用できるものも

移住したのは2011年、2人のお子さんが5歳と2歳のとき。

「移住の条件は自然豊かな環境、そして英語圏であること。カナダやオーストラリアも検討しましたが、最終的には旅行で訪れたときから気に入っていたニュージーランドに決めました。移住から13年が経ち、上の息子はもう大学生。振り返ると、あの時決断して本当によかったと心から感じています」

想像していた通り、自然いっぱいでのびのび過ごせる環境。でもそれだけでなく、ニュージーランドではこどもが自分らしく生き生きと成長できると実感したそうです。

オークランドにある、下山さんのご自宅の様子。カフェテーブルは、カウリというニュージーランドのネイティブツリーを使用したもの

「ニュージーランドは移民大国。多国籍なので、考え方も容姿もみなそれぞれ違うことが当たり前です。むしろ、人と違うことが強みになる。さまざまなバックグラウンドを持つ人と関わる中で、こどもたちは自分の考えや意見をしっかり持てるようになった気がします」

異国での暮らしはお子さんに限らず、下山さん自身の考え方も大きく変えることになります。

強制的に情報をシャットアウトされたことで、自身の考えがクリアになりました

永住権を取得してニュージーランドに渡航した下山さんですが、当時はネイティブレベルの語学力があったわけではありませんでした。

「言葉の壁があるから、それまで当たり前のように得ていた情報がまったく入ってこなくなりました。カフェに行っても買い物に行っても、周りの声はただのBGM。自分が知りたいと思うことがあれば、その都度調べたり人に聞いたりして自ら情報をとりに行かなくてはなりません。でも私はその状態を不安に思うどころか、なんてラクなんだ!と心地よく感じたのです」

日本にいると、求めなくてもどんどん情報が頭に流れ込んでくる。情報が多すぎて判断に迷い、時には周囲に流されてしまうこともあったと振り返ります。

「あふれる情報はそれほど必要なものではなかった。日本を飛び出してみて初めて、心からそう思えるようになったのです」

特に、子育ての場面では心がずいぶん軽くなったそう。

「まず育児書やネットに書いてあることに振り回されることがなくなりました。以前は『こうしつけなきゃいけない』『何歳までに○○ができるようにならなければ』と常に何かに追われていました。周囲の誰かと比べて落ち込んだりもしていたはず。ニュージーランドでの暮らしは情報が入ってこないうえ、『自分は自分、人は人』とお互いをリスペクトし合う環境です。誰かと比較されるでもなく、熾烈な受験戦争もありません。私自身、肩の力を抜きながら子育てしてこられたという実感があります」

食生活においても、肩の力がぐっと抜けました。「体にいいものだけを食べる」ということに意識を向けすぎなくなったといいます。

「『無添加食材を選んでいれば大丈夫なはずだ』『食に気を使わないと健康ではいられない』などと、以前はある種の強迫観念がありました。心からそうしたくて実践しているというより、情報に囚われすぎていたのだと思います。ニュージーランドはオーガニックやフェアトレードの食品が身近な国。でもすべてにこだわっていたら食費がかさむし、精神的にも大変です。できるだけ手づくりや無添加を心がけてはいますが、『今日は忙しかったからハンバーガーでもいいよね』と、今はなんでも素直に受け入れられるようになっています。そう言って家族で笑い合いながら食べるだけで、特別な時間だと思えるのです」

外に出たからこそ、日本の技術力や素晴らしい文化に目を向けることができた

もちろん、習慣や文化の違いに戸惑うこともたくさんありました。

「約束の時間に相手が遅れることはよくあるし、何かが故障しても日本のようにすぐ修理に来てくれるわけではありません。最初は戸惑いましたが、子育てと同じく『こうあるべき』と考えていた固定観念が少しずつ崩れていったような感じです」

だからこそ、日本のよさにも改めて目を向けることができたという下山さん。特にサービスのクオリティや食事のおいしさは、日本の強みだと言います。

「年に3回ほど帰国していますが、食事は一番のご褒美。スーパーで商品をチェックするのも楽しみにしています」

今回教えてもらったのは……

  • 下山陽子さん
    メリノウールインナーブランド「YARN」オーナー。2011年にニュージーランドへ移住し、2019年にブランドを設立。ニュージーランド産最高級のメリノウールを使用したインナーウェアを手掛けている。

    https://yarn-nz.com/

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