「片づけて」と言っても嫌がる。散らかしたおもちゃを、つい大人が片づけてしまう……その繰り返しで、なかなかこどもに片づけが身につかない、と悩んでいる親は多いもの。モンテッソーリ教育の視点から見ると、片づけは、単に整理整頓の意味ではなく、自立への第一歩なのだそう。日常生活の練習を楽しみながら、自然と片づけを身につけさせるヒントを、人気教室を主宰するモンテッソーリ教師の丘山亜未さんに伺いました。

HOUSTO 編集部

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今回教えてくれたのは

  • モンテッソーリスクール「ちいさないす」主宰。日本乳幼児教育協会代表。
    10年で25,000組の親子にかかわる。著書に『子どもの才能を伸ばす5歳までの魔法の「おしごと」』、『0~7歳 モンテッソーリ教育が教えてくれた子どもの心を強くする10のタイミング』(青春出版社)がある。

    丘山亜未さん
    https://mirai-kyouiku.com/

「モンテッソーリ教育」で片づけられる子になる?

モンテッソーリ教育は、イタリアの医師・教育者であるマリア・モンテッソーリによって提唱された教育法。こどもの「自発性」と「自己教育力」を尊重し、個々の発達段階に合わせた学びを提供するのが特徴です。

横浜市妙蓮寺駅から徒歩1分の幼児教室「ちいさないす」は、0歳から6歳までのこどもたちが通うモンテッソーリスクール。代表の丘山亜未さんは、自分自身の育児の悩みをきっかけにモンテッソーリ教育と出合い、まずは自宅からはじめた子育て教室を、満席が続く現在の人気教室にまで育て上げました。

ビルの2Fにある教室は、広々と全体が見渡せるシンプルな空間。棚には、教具の数々が見やすく配置されていました。

生活の道具は、こどもの自立心や集中力、運動の協調性を育む教具としても使われます。さまざまな道具がありますが、なかでも大工仕事の体験ができる本物の釘と金槌が大人気だそう。

裁縫セットも大人気。危ないように見えますが、だからこそこどもたちは真剣に取り組みます。こうした細かな動きは、指先の微細運動を促す効果もあるそう。

自分で好きな道具を選び、元々あった場所に戻す

「3歳以上の異年齢混合クラスでは、まず、みんなそれぞれ自分がやりたい道具を棚から持ってきて、机でその活動を60分ほど繰り返します。好きなものには、本当に集中しますよ。没頭するほど、いい状態。その後、集団活動へ。みんなで実験や制作をします。ほかにも集団提示といって、何かやり方を見せたりする時間があって、最後に絵本の読み聞かせをします。レッスンが終わるときには、道具はすべて元通りになっている状態。もちろん、こどもたちが自分で、元にあった位置に戻します」(丘山さん、以下同)

「ご覧いただくと分かる通り、道具はひとつずつ、こどもの手に取りやすい状態にセットしています。活動は一つのトレーを持ってきたら完結するものがほとんど。片づけも、はじめの状態で戻せばいいだけなので、基本的には、とても楽に片づけができるようになっているんです」

家の中のおもちゃは、細かいものが混ざり合ってしまうことがよくあります。こどもによっては、教室でも道具を混ぜてしまうことがあるのでは?

「そうですね、慣れていないとそういうこともありますが、1つずつやり方、使い方が異なるので、『これはこうやって使うんだよ』とはじめの数回言ってきかせれば、こどもたちはほとんどすぐに理解して、混ぜることはなくなります」

教室では、なんと0歳のこどもたちから「自分で使ったものは自分で片づける」という考えを伝えているそう。大人が一緒に持って行くなど、年齢に応じたサポートをしながら、片づけの習慣づけを行っているといいます。

「年齢が進むと、人のものも片づけちゃうことがあります(笑)。何かが落ちていたらさっと拾ったり、友達の片づけをみんなで手伝ったり。片づけに対してどの子にもネガティブな気持ちが全然ありません。サクサクと次にいきたいから、早く片づけちゃおう、という感じです」

『体を動かしたい!』こどもの生理的欲求を満たす<日常生活の練習>

棚に用意された道具は、いずれも単なるおもちゃではなく、こどもの自発的な学びを助け、感覚、認知、運動能力の発達を支援するように設計されています。

「こうやって、豆を容器から容器に移し替える。こんな単純な活動も、こどもたちはものすごくのめり込んでやり続けるんです。たとえば、食事のときに、こどもが麦茶をご飯の器にジャーッと入れてしまうということがありますよね。あれは、お母さんに嫌がらせをしているわけでも、イタズラがしたいわけでもなくて(笑)、『水を流し入れてみたい』『こうやって手足、体を動かしてみたい』という欲求の現れ。それをこうして遊びのような形で思う存分やらせてあげれば満足して、食事中にイタズラをすることもなくなるんです。そして生活の中でもできることが増えていきます」

家庭では、散らばりやすいもので遊ばせることをためらってしまいますが、集中できる遊びを提供することはその先の成長を促す、と丘山さん。

「たとえば、豆を落としてばーっと広げてしまっても、こどもは一個ずつ瓶に入れる、その動きが楽しいと一生懸命拾ったりします。大人もそれに付き合って、楽しんでしまえばいい。1、2歳の子はまだ片づけができないと思われがちですが、そんなことはないんですよ」

トレーの中で、豆を好きなだけ移し替える。
こんな単純な遊びも、こどもたちの集中力を高めます。

おもちゃは数を絞り込んで、集中させる

「片づけというのは、空間をきれいにするだけではなくて、自分で選んで使ったことに責任があるということを、教室では学んでいきます。これが、大きくなってからも重要。そのためには、一貫性がすごく大事なのです。駄々をこねられたり、お母さんが疲れていたら、もう面倒だから自分で片づけてしまうとか、家庭ではどうしてもそうなってしまいますよね。でも何か毎日の中で、ひとつでも一貫性を持たせていくと、こどもはすんなりやるようになる。幼児期、片づけを当たり前にするまでは、大人の方に根気が必要ですね」

一貫性を持たせる。さまざまなモノに溢れた家庭では、なかなか難しいことのように思えますが……。

「ほとんどの家庭に言えることですが、おもちゃが多すぎるんですよね。おもちゃは、本当に数少なくていい。それは、片づけが楽だという意味もありますし、こどもたちも、おもちゃの数が少ない方が、一つひとつに集中できます。だから、なるべく絞り込んで、手に取りやすい場所に配置してあげる。そうすれば、元の場所へ戻そうね、という一貫性も生まれやすくなります」

散らかりがちな工作遊びについても、使う道具を1つの箱などに全部セットするのがおすすめとのこと。

「その箱を持ってくれば、もう工作がスタートできるっていうような状態が一番やりやすい。それをどこに戻すのか、また制作したモノの扱いについても、ルールを作っておくといいと思います」

「自分のことは自分で」選択できる大人へと導く、片づけの習慣

「自立したこどもたちのベースに、幼いころ身につけた“片づけ”の習慣がある」と丘山さんは言います。

「たとえば中高生になれば、合宿へ行くときの荷物を1人でパッキングするなど、モノを管理できるようになる。さまざまな選択を、親の手を借りずに、自分ごととして考えられるようになっていくんですね。幼いころから自分で使ったモノは元に戻すという『小さな責任』は、その先に自分がどういう進路を選ぶのかなどの『大きな責任』につながっていく。こどもたちが自発的に何かをするときの種は、やはり“片づけ”にあるんだなと、この仕事を通じて実感しています」

自己管理能力の基礎をつくる、片づけの習慣。まずは家庭のおもちゃの量を見直すところからはじめてみませんか。また、丘山さんの著書をはじめ、モンテッソーリ教育に関する書籍にも、たくさんのヒントがありそうです。

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