住環境、きょうだいの数、教育方針などから、「こども部屋」の形はさまざまですが、多くの親が「こども部屋っていつから必要?」「どうやって自分で片付けられる子に育つの?」という疑問を抱えています。“日本唯一の家事シェア研究家”として知られる三木智有さんに、こども部屋の大切な役割と、自立を促すこども部屋をつくるため、家族が取り組むべきことを伺いました。
今回教えてくれたのは……
三木智有(みき・ともあり)さん
日本唯一の家事シェア研究家。NPO法人tadaima!代表。家事シェアの普及のため年間80本以上の講演活動を行うほか、元インテリアコーディネーターの経験を活かし、子育て家庭の模様替えコンサルタントとしても活動。2016年には内閣府「男性の暮らし方・意識の変革に関する専門調査会」委員に選任されました。著書に『家族全員自分で動く チーム家事』『家事でモメない部屋づくり』(いずれもディスカヴァー・トゥエンティワン刊)がある。
https://www.instagram.com/tomoari_miki
目次
- ・近年多くなっているリビング学習。小学生に学習机を与えたものの、物置状態になっている……という例もよく聞きます。こども部屋って、そもそも必要なんでしょうか?
- ・こども部屋は、個室である必要がありますか?
- ・何歳からこども部屋(プライベート空間)をつくってあげるのが理想的ですか?
- ・三木さんは、こどもの「一人寝」を重要視されているそうですが、それはなぜですか?
- ・せっかく用意したこども部屋が散らかり放題でまったく機能しません。どうやったらこどもが自主的に片付けるようになりますか?
- ・家族に片付けの意識づけをするために、どこから、どのようにはじめたらいいでしょうか?
- ・幼いこどもの場合、片付けに対するモチベーションを保つ声がけの工夫はありますか?
- ・こども部屋=成長と自立をするための「お籠もりスペース」と考える
近年多くなっているリビング学習。小学生に学習机を与えたものの、物置状態になっている……という例もよく聞きます。こども部屋って、そもそも必要なんでしょうか?
住宅事情もあるので一概には言いづらい部分もありますが、「こどものプライバシーが守られる空間や環境」、これはあった方がいいと思います。
こども部屋と聞くと、勉強部屋や寝室としてという機能が思い浮かぶと思いますが、私はそれよりも「引きこもりスペース」としての役割が重要だと思っています。その空間で、たとえば空想にふけったり、あれこれイメージを膨らませてみたり……。また、きょうだいや親とケンカしたときに、逃げ込める場所でもある。そういう場所が家の中にあることは、こどもの成長にはとても大切だと私は思っています。
大人だって、誰とも触れ合いたくないとき、トイレにこもったり、布団にくるまったりして、外部を遮断しようとしますよね。遮断することで、心を落ち着け、自分自身と向き合って内省することができるんです。全部がオープンなままだと、逃げ込む場所がなくなって、安心できないんですよね。
だから、ある程度の年齢になったら、こども一人だけのスペースを、何かしら用意してあげる必要があると思います。
こども部屋は、個室である必要がありますか?
「スペースが限られている」「きょうだいが多い」など、なかなか一人用の個室を用意することは難しい。「モヨウ替えコンサルタント」として個人宅を訪問してきた中にも、そういうケースはよくありました。その場合は、どうやってそれぞれのプライバシー空間を分けるか、ということを考えます。
具体的には、ひとつの部屋をきょうだいや親とシェアする場合には、ロフトベッドを活用して、さらにカーテンで区切ったり、パーテーションを使ったりします。プライベートが確保された「こもれる空間」であれば、必ずしも個室である必要はないと思います。
何歳からこども部屋(プライベート空間)をつくってあげるのが理想的ですか?
こども部屋づくりに適している年齢は、だいたい8歳くらいからと考えています。その理由は、小学校に入学して少し落ち着くタイミングだから。小学生になったらこども部屋を、と考えるご家庭は多いのですが、入学直後は幼稚園や保育園と大きく異なる環境に、こどもも緊張する時期。小学校のリズムに慣れてから、一人寝やこども部屋づくりにチャレンジしていくと、こどもにも負荷が少ないので、この年齢を推奨しています。
私はいつも、こども部屋は徐々に作っていくといい、と提案しています。机・ベッド・本棚が揃った「こども部屋セット」をいきなり用意するのではなくて、まずは「一人で寝る練習」からはじめていくことをおすすめします。眠れる環境をつくって、寝る、起きる、着替えるなどの、生活を整える場所としてはじめて、部屋として育てていくのです。

三木さんご自宅のこども部屋スペース。趣味と使いやすさが心地よく同居したデスク
学習机は、もっと後でいい。小学校低学年のうちは、多くのご家庭がリビング学習なので、部屋に机を用意しても使わないか、物置になるケースがほとんどです。
高学年や中学生くらいになって、ちょっと一人で集中して勉強したいという傾向が見られたとき、こどもと一緒に学習机を選んで、購入して、部屋を作るというのが、ステップとしてはベストかなと思っています。
三木さんは、こどもの「一人寝」を重要視されているそうですが、それはなぜですか?
これまでさまざまな家庭をコンサルティングしてきた経験から、一人寝のタイミングは、こどもの自立に大きな関係があるのではないかと思うようになりました。
高学年になっても、「親と一緒でなければ眠れない」という子は、自立や、その前の自己管理が苦手な場合が多いです。
これは、絶対に別の部屋で寝せなければということではありません。住宅事情から、どうしても家族が同じ部屋に寝ざるを得ない状況もあると思うのですが、こどもが一人で先に寝る、親だけが先に起きるなど、睡眠時間をずらすことで「一人寝」の訓練は可能です。
高学年以上になっても「親が隣で寝てくれないと眠れない、寂しい、怖い」という場合は、なかなか自立が難しいという印象です。
小学生の間に一人寝ができるようになる、つまり親離れの一歩が進んでいると、自立が完成しやすい。こども部屋、プライベートスペース作りは、そういう意味でもステップが大切だと考えます。
せっかく用意したこども部屋が散らかり放題でまったく機能しません。どうやったらこどもが自主的に片付けるようになりますか?
幼いこどもが部屋を一つまるまる自分で使いこなすって、けっこう難しいことなんですよね。だから学習机が物置状態になっちゃったり、一人で寝るのを嫌がったりして、うまく機能しない、もったいない空間になってしまう。「散らかった部屋」が仕上がっている場合は、家族みんなで考え直して、取り組む必要があると思います。
全員が絶対にそう、というわけではないのですが「親自身が片付けをちゃんとできてるかどうか?」というところが実は結構大事なんです。
いろんなご家庭を見てきましたが「家全体は整頓されているのに、こども部屋だけがめちゃくちゃ」というケースは、レアなんですよね(笑)。
こども部屋が散らかっている場合、リビングや寝室も、それなりにモノが溢れてしまっていることが多い。家庭に片付けの仕組みやルールがない状態で、こどもにだけ「片付けなきゃダメだよ」ってやっぱり、無理だと思うんです。
パートナーを(きれい好きに)変えたい、こどもを変えたいっていう人はすごく多いんですが、まずは自分自身が、共有空間であるリビングを中心に、身の回りを片付けていくことが最初のスタートだと思います。遠回りに見えるかもしれませんが、まずこども部屋から手をつけるのではなく、大人が管理できるところから整えていくのがコツです。
家族に片付けの意識づけをするために、どこから、どのようにはじめたらいいでしょうか?
「家族に対してのアプローチ」を一つ目標として考えるのであれば、家族の目につくところからはじめるのがオススメです。しまい込んでいた思い出の写真や、納戸から手をつけるなんてもったいない!リビング・ダイニング・キッチン・洗面室。家族全員の目につきやすいところから整えていき、「お母さん(お父さん)が掃除している!」とみんなに気づかせましょう。
親が「私がきれいにしたのに家族が散らかす」ということがあると思うんですが、家族がそれをキープしてくれない時には、そこに「ルールがないから」ということが基本的な問題であることが多い。
家族のルールになるためには3つの条件があります。
①そのルールには合理性があるか。(モノは床に置かない。なぜならつまづいて危ないから、など)
②ルール作りを、家族みんなで考えたか。(親だけのルールになっていないか)
③そのルールは平等か。(躾と称してこどもだけのルールになっていないか)
みんなが納得できる内容で、誰かが一方的に押し付けたものではなく、みんなが平等なルールを作ることが大切なんです。
たとえば「モノを床に置きっぱなしにしていたら、置いた人が500円の罰金を払う。その500円は、家族のための貯金箱に貯めて。家族のために使う」
親がドサっと買い物袋を床に置いても500円、ランドセルを床置きしても500円、そこは平等であることが重要です。そういうことを続けていくと、それが家庭内のモラルになっていく。ルール遵守を続けていくことで、家が整い、こども部屋にも変化が出てくるはずです。
幼いこどもの場合、片付けに対するモチベーションを保つ声がけの工夫はありますか?
片付けも、ゲーム感覚で覚えていけるといいですね。この連載にもモンテッソーリ教育についての記事がありましたが、おもちゃを出して、使って、戻すところまでが遊び、お仕事というふうに捉えれば、こどもは1歳くらいからでも自然と片付けは身につくと思います。
こどもが使ったおもちゃを片付けるときに、親御さんが「片付け手伝って」「手伝ってくれてありがとう」という声がけのパターンがありますよね。でも、これは逆かな、と思うんです。
親がこどもの片付けを手伝ったのならば、こどもに「ありがとう」って言われなきゃおかしいですよね?もちろん、こどもにお礼を言わせよ、ということではなくて。お片付けを、「パパ、ママが手伝ってあげるからね」と、あくまでも「本来ならあなたがやることなんですよ」というスタンスで接していくことが大切なんじゃないかと。
この段階がないと、こども部屋を持った瞬間突然に、片付けが自分だけの仕事になってしまうんです。未就学のときは親が片付けてくれて、一緒にやるだけでお礼を言われたくらいなのに、小学校に入ったら部屋を用意されて、片付けなかったら叱られる、という。
「自分ごと」になる前に、環境だけ与えられても、自主的に整えるは難しいですよね。
だから幼いうちから「本来なら君がやる片付けを、私たち大人が手伝ってあげてるんだよ」ということを教えておくと、自立もスムーズに進むのかな、と思います。
こども部屋=成長と自立をするための「おこもりスペース」と考える
こども部屋は単なる寝室や勉強スペースではなく、こどもの成長と自立を支える重要な空間。こども部屋をつくる前に、発達に合わせて段階的に整えていくこと、片付けも「自分ごと」と捉えさせることが大切です。
まだ幼いお子さんの保護者の方は、ぜひこの段階をふまえたこども部屋づくりをオススメしたいです。そして、片付け下手な中高生の親御さん、まだまだ間に合います!まずは、家族が一丸となってルール作りをしてみましょう。