突っ張り棒といえば、デッドスペースを活かせる収納用品として大活躍のアイテム。ただ、生活感が溢れがちなところが悩みですよね。そこに彗星のように現れた突っ張り棒「DRAW A LINE」をご存知でしょうか。隠すどころかむしろ見せたいスタイリッシュさと、デザインとバランスの取れた機能性の高さにたどり着いたその背景を、メーカーの平安伸銅工業さん、共同開発したクリエイティブユニットTENTさんに聞きました。

HOUSTO 編集部

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便利な突っ張り棒。⾜りなかったのは、「デザイン性」だった!

平安伸銅工業株式会社の商品開発担当・大西さんがリモート取材に応じてくれた。

1952年創業の平安伸銅工業は、日本で初めて突っ張り棒を発表した老舗メーカー。突っ張り棒のトップシェアメーカーだからこその悩みは、商品のマンネリ化。機能性と価格優先の商品開発のままでは時代に取り残されるという危機感から、魅力ある新商品へ取り組みが始まりました。しかし積み重ねた伝統の変革は難航。そこで内部だけで考えるのではなく、外部に協力を仰ぎ、クリエイティブユニットTENTと開発したのがDRAW A LINEです。平安伸銅の商品開発担当・大西さんは、第1号の商品にデザインの力を感じたといいます。

「社内に設置してまず『おっ、かっこいいな』とシンプルに感動しました。突っ張り棒って、それまであまり⾒せない『隠す収納』でしたよね。新しい商品には、見せる収納として空間を引き締めるデザイン性があり、いままで見過ごされてきた突っ張り棒の悩みを解決できる可能性を感じました

便利な突っ張り棒。⾜りなかったのは、「デザイン性」だった!

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「新商品では機能を落とさず、いかにコストを下げるかが優先されていました。そんな社風のなかに出された最初のデザイン案は、これが本当に売れるのかと不安視する声も上がるほど、会社として斬新な取り組みでした。」
そう話す大西さん。とはいえ、ものづくりの会社だけにチャレンジ精神は息づいています。
「うちの会社は職人気質の人ばかりですから、一度始まれば次々とアイデアを出す熱意で協力体制ができていきます。お客様に新しい突っ張り棒の新しいカタチを届けようと、職⼈⼀同熱意を持って⼀気に開発に取り組みましたね。」

突っ張り棒の良さは、安価で買ってすぐに簡単に設置できるところ

縦に設置できるので、観葉植物のような嵩張るインテリアも省スペースに飾れます。

突っ張り棒の一番の利点は、DIYができなくても専門の業者に頼まなくても、買ってすぐ使えること。

「引っ越して最初に悩む場所は収納といわれますが、突っ張り棒ならマンションでも一軒家でも簡単に収納場所を増やせます。その魅力はそのままに、さらにDRAW A LINEにおいては、見えるところに設置してもインテリアとして成立するのが強み。付属パーツも多種多様で、それぞれの生活スタイルにあわせた最適な使い方ができるんです。」

プロダクトデザイナーとしてのびのび仕事ができていますと楽しそうに語る大西さん。

あくまで今までも突っ張り棒を使っていた人たちを意識しコストにもこだわった結果、収納の悩みと生活感の悩みを同時に解決する画期的な突っ張り棒になりました。

「突っ張り棒に生活感が出てしまう悩みは、消費者も作る側も諦めていた部分。でも『本当に諦めていいの?』という気づきが、DRAW A LINEの開発を通して生まれました。自分たちの積み重ねてきたものにはもっと可能性があると新たにデザインでアプローチしてきた結果、お客様にも好評いただける商品が完成しました。詳細はまだお話できないのが残念ですが、生活スタイルの提案ができる商品を絶賛開発中ですので、楽しみにしていてください!」

「自分が欲しい!」という気持ちにこだわるものづくり

クリエイティブユニットTENT の治田さん(左)と青木さん(右)。

平安伸銅工業と一緒にDRAW A LINEをつくったのは、東京を拠点に活動するクリエイティブユニットTENT。DRAW A LINE のほかにも、プロダクトの企画立案、デザインからブランディングなど、ものづくりにまつわるすべてのことを手掛けます。

TENTが手がけるプロダクトは家電やキッチン用品、バッグ、文房具など幅広く、思いついたら欲しくなってつくってしまった!という魅力的なものばかり。「自分が使いたい」「人にプレゼントしたい」と思えるものづくりを理念にしているのだそう。

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そんなお二人がデザインしたDRAW A LINEのこだわりは、やっぱり「欲しい!」と思えること。 「最初、平安伸銅工業さんからは突っ張り棒ではない新商品を作りたいと相談がありました。主力商品の突っ張り棒はこれ以上手の施しようがないと諦めていたんですね。でも僕たちには、突っ張り棒の市場は便利だけど買いたいと思えるものがない状態で、デザインの切り口からアップデートし、照明や棚、テーブルなどのオプションを追加して用途を広げれば、新しい突っ張り棒ができるという確信がありました。」

ただ黒いだけじゃない、唯一無二のこだわりの質感。

そこで、とことんインテリア性にこだわった商品を作ることを平安伸銅⼯業へ提案。マットな塗装、真鍮のネジなど細部にこだわることで、ただの便利グッズという立ち位置ではなく、「いい家具」のような雰囲気を醸し出すことができたといいます。幸いにも平安伸銅工業には構造など信頼できる技術の蓄積があり、両者の利点が存分に活かされた商品は「想像以上のでき」だったと言います。

デザインに大切な5つのステップ。「装飾」の前に「優先順位」を考えること

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突っ張り棒の概念を根本から変えた「デザイン」とは、そもそも何なのでしょうか。使い道を根本から考えるプロダクトを生みだすためのアイディアの考え方を教えてもらいました。

「デザインというと装飾の部分のみを語られがちですが、僕たちが重要視するのは『優先順位』。突っ張り棒でいうと、コストと荷重性能が最も重要視されていたのですが、生活空間に馴染む佇まいを実現するために優先順位を入れ替えたのが DRAW A LINE なんです。」

デッドスペースを活用できる突っ張り棒の目的をしっかり活かしつつ、生活感という悩みは減らす。そうやって目的から整理し直したことで、見た目も機能も広がったんですね。

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DRAW A LINEは、玄関に置けばカバンやジャケットが掛けられて靴も置ける。ベッドサイドでは眼鏡や携帯を置けてついでにパジャマも掛けられる。青木さん、治田さんも自ら使ううちに、あれも置けると発見があるそうで、とあるバイヤーには「未来の家具」と称されたそう。

「リビングでもこども部屋でも、その場所に紐づいた使い方に自由に変更できるのは新しいですよね。一本の棒だけという軽い家具は、現代のミニマムな生活に合っているなと思います。」

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DRAW A LINEシリーズ最新作の「Move Rod」は、縦型にキャスターをつけたもの。丸くて回転できるので壁に寄せても、すべての面から出し入れしやすくなっています。さまざまな場所でデッドスペースを活かした収納になるという突っ張り棒の考え方から新たな家具が生まれていました。

機能性と価格を追求してきたメーカーの実績と、新たな切り口からのデザインアプローチ。ふたつの違う価値観が柔軟にコラボし、「生活感があって当然」という思い込みを手放すことで、思いも寄らない新しい価値の創出につながり、突っ張り棒もメーカーも新たな一歩を踏み出すことができたのです。

今回お話をお伺いしたのは……