モノを買うのがストレス
買い物が苦手です。
たとえば、掃除機を買う場合。
新商品には見向きもせず、壊れる前は絶対に買わず、もう致命的になってからやっと購入。
買う時も、性能比較サイトなどを見ているうちに、どうも情報が整理できなくなってしまい、最終的には適当に店頭でそれなりの値段のものを買う…という始末。
原因はおそらく「情報を収集し、しっかりこだわって、間違いのないセレクトをすべし」と思いすぎているから。
HOUSTOでたくさんのお宅を拝見し、みなさんの審美眼を間近で見ていると、自分のセレクトにどうしても自信が持てなくなってしまうのかもしれません。
本の町で再会した、懐かしのカセット
そんな私が、唯一開放的な気分で買い物ができるジャンルが「本」です。
昔から、本にだけは出費を惜しまず、好き勝手に買っても良いというルールを作っていて、そのルールは未だ有効。
世界最大の本の町、神田神保町でその再会はありました。
コロナ禍で規模が縮小していた「神田古本まつり」が2023年、本格的に開催されました。
1歳の子どもを背負い意気揚々と祭りに参加、道路にズラッと並ぶ本の山(ワゴン)を、人混みの間から覗き込み、めぼしい本を品定め。
長らく続くワゴンの中に、懐かしのアイテム『宮沢賢治童話集』があったのです。
小学生の夏休み、蚊帳の中で聞いた童話
岩手県出身の私は、幼い頃から宮沢賢治の童話に親しんできました。
夏休みになると放り込まれていた広く古い祖父母の家、永遠にも感じられる休みの夜は、決まって祖父が宮沢賢治の童話カセットをかけてくれました。
お話やセリフも暗記してしまうほど、幾度も聞いたあのカセット集。
そのカセット集が、なんと30年の時を経て、神田古本まつりに出品されていたのです!
見つけた瞬間値段も見ずにすぐに買い求め(4000円程度でホッとした)、今日一番の戦利品!とホクホクした気持ちで帰路についたのです。
カセット再生ができない
懐かしい書影、懐かしいカセットの色合い……あー早く帰って聞きたい!と思っているところに湧いてきた基本的な疑問。
「あれ?カセットってどうやって聞くんだっけ…」
ということで、帰りに家電店により、カセットプレーヤーコーナーを物色しました。
置く場所を選ばない電池式であること、持ち歩きやすいハンディタイプであること、ラジオも聞けると防災時にも安心かも?などなど考えながら、もう数十年ぶりに新品のカセットプレーヤーを買い求めたのでした。
あんなに苦手だった買い物ですが「このカセットが聞きたい」というシンプルな欲求があれば、こんなに簡単に買い物できてしまうことにびっくりです。
子どもへの読み聞かせの代わりに、カセットで童話を
自分の懐かしさのために買ったカセットではありますが、言葉を話しはじめた子どもにも、ぜひ小さいうちから宮沢賢治を聞かせたい、という思いもありました。
ジーッというカセットの懐かしい再生音に続いて、童話が流れ出すと、結構真剣に物語に耳を傾けている子どもの姿がありました。オノマトペや方言が満載で、意味がわからなくても語感やリズムだけで面白いようです。
「ぞうのあたま!」「かたゆきかんこ!」など、聞き取れる言葉は復唱して楽しんでいます。
私も暗記するほど聞いた…と思っていましたが、大人になってよくよく聞いてみると「こんな話だったのか」と、お話の奥行きに改めて感動しています。
ちなみに、私のお気に入りの話は「祭の晩」と「雪渡り」です。
買い物って楽しい
童話集とカセットテープ、プレーヤー。
3つも一気にモノが増えましたが、こういう遊びの余白は、しっかり残していきたいな、と感じています。
モノ選びや買い物は、シビアなだけではつまらない。
今のところ、モノを選ぶのが苦手ということに変わりはありませんが「もっとわくわくする気持ちを優先してみてもいいのかも?」という気づきがあった買い物となりました。