今回の「暮らしの取捨選択」でご紹介するのは、一級建築士の宇津崎せつ子さん。住む人のライフスタイルと心を第一に考えた住宅設計やアドバイスを行っています。家と暮らしについて考える職業ですが、「住まいづくりは人づくり」と明言する宇津崎さん。その思いとともに、これまでの人生についてもお話を伺いました。

HOUSTO 編集部

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豪邸で暮らしたこども時代。家の大きさと心の距離は反比例すると気づきました

宇津崎さんは一級建築士事務所「宇津崎せつ子・設計室」代表。関西を拠点にしていますが、全国各地から住宅設計や住宅に関するアドバイス、講演の依頼が絶えません。

宇津崎さんが得意とするのは、家族の幸せな暮らしを実現する「住育(じゅういく)」の住まいづくり。また、敷地面積や建坪の大きさにこだわらない間取りと収納設計です。プライベートでは、8歳の息子さんを育てるママでもあります。

宇津崎さんは自宅の一角にオフィスを構えています

仕事に子育て、順風満帆な人生を送っているように見えますが、つらかった時代から抜け出せたのは実はつい数年前のこと。「今が一番幸せ」だと語る宇津崎さんの転機は、これまでに2回ありました。

「一度目は、小学生の頃。建設会社を一代で築き上げた父が豪邸を建ててくれましたが、その家に住んでから家族の心は少しずつ離れていってしまいました。両親の仲は悪くなり、父はあまり家に帰ってきません。誰もいないのに立派なリビング。孤独感でいっぱいのこども部屋。家族の気配を感じない、寂しい広い家です。常に親の顔色を伺いながら、愛されていると感じられない大人になったと思います」

そんな経験から、「家が大きければ幸せになるのではない。家の大きさは関係ない」と強く思うように。家づくりを通して幸せな家族をたくさんつくりたいという一心で、一級建築士の道を歩んできました。

形あるモノはあっけなくなくなる。この経験から学んだのは、人とのつながりの大切さ

宇津崎さんには、形あるモノへの執着がいっさいないそうです。それは父親が多額の借金を残して急逝した際、家も会社もすべて失った経験があるから。宇津崎さんが24歳のときです。

「豪邸は人手に渡り、形あるモノはあっけなくなくなるという事実を目の当たりにしました。そして私のことを可愛がってくれていた周りの大人たちは、父が亡くなった途端に離れていきました。モノや地位、お金に人が集まっていたのだということに、大きなショックを受けたのです。それでも変わらぬ態度で接してくれた人もいて、そのことは大きな励みになりました」

2度目の転機は、結婚してから犬を飼ったこと。10歳になるトイプードルのピー助くんです。

「家族のあり方がよく分からないまますれ違いの結婚生活を送っていましたが、『こんな私でも家族がつくれるんだ』と実感させてくれたのがピー助。それから夫婦で向き合えるようになり、こどもを産み育てるという前向きな気持ちを持つことができたんです」

ピー助の名前の由来は「ピース(peace)」と「助ける」。名前の通りに宇津崎さんを助け、家庭に平和を運んできてくれました

ピー助を迎え、出産を経て親になった宇津崎さん。以前にも増して、「家族の幸せを育める家づくり」の重要性とやりがいを感じられるようになったそうです。

自邸は家族の息遣いを感じられる空間に。ひとり時間も確保します

自身の住まいは、もちろん宇津崎さんが設計。建坪16坪ですが開放的な空間で、どこにいても家族の気配を感じられます。

「この家のコックピットはキッチン。玄関も和室のこどもコーナーも、キッチンに立ちながら様子を伺うことができます。吹き抜けから2階の様子も分かります。大切にしたのは、どこにいても『見守っているよ』という安心感をこどもに与えられること。広い家の中で孤独を感じていた幼少時代、そのつらい思いがあったからこそ生まれた住まいです」

ひとりで過ごす時間や空間もしっかり確保。2階寝室のデスクコーナーがそうです。ちょっとした空き時間にテレビドラマを見て、ほっと息抜き。2階の個室には、吹き抜けにつながる小窓を設けました。忙しい朝でも、ここでメイクしながら階下のこどもの身支度を見守れるようになっています。

家族それぞれ好きなことをしながらも、お互いの気配を感じ合える。安心感を育む間取りです。

ありのままの自分を受け入れる。自分が自分の一番の理解者だと思っています

自分の気持ちを大切にし、ありのままの自分を受け入れて好きになることが大切。これは、さまざまな転機を経て子育てをしていく中で、宇津崎さんが気づいたことです。子育てしながら気づくことは本当にたくさんあります、と語ります。

「小学生の息子はいつも自信に満ち溢れていて自分が大好き。生まれ持った性格ももちろんあると思いますが、この家の間取りがその成長を後押しできているとしたらとてもうれしい。私はこれまでずっと自分に自信が持てないまま、仕事をしていない自分には価値がないと思い込んでいました。自己肯定感が低かったんですね。それでも自分の価値を証明したくて、ここまで仕事をがんばってこられたのだと思います」

まずは自分自身が幸せを感じられること。でなければ、人を幸せにすることなんてできない。宇津崎さんはそう感じています。

「今はありのままの自分を好きになることができたし、私は私のために生きている。このつらい経験があったから人の役に立つことができるし、つらい人の気持ちを汲んで家づくりができていると思えるようになりました。『宇津崎さんじゃないとできないから』と依頼してくれるお客様と『この家族を幸せにしたい』という私の思い、お互いが選び合って一緒に家を育てていく。今はそんな感覚で仕事ができています」

これまで30年近く、たくさんの住宅設計を手掛けてきた宇津崎さん。今後は家づくりの考え方を広めていきたいという思いが強いそうです。今年に入り、暮らしや住まいの悩みを相談できる「住育サロン」をオフィスで定期開催しています。

「住まいづくりは人づくり。家のビフォーアフターより、そこで暮らす人がどう変わるのかが大切だと思っています。家が心地いい空間になれば、家族の心はより深くつながります。家事もラクになります。一から家を建てないと実現しないの?とよく聞かれますが、リフォームや収納を見直すだけでもガラッと変わるもの。その考え方をもっともっと広めていきたいと思っています」

宇津崎さんの暮らしの工夫

テーブルにモノを置きっぱなしにしたらペナルティ

「家の中は、家族みんなが過ごすパブリックゾーンと、個室などプライベートゾーンに分かれています。リビングのテーブルはパブリックゾーン。モノを置いたままにするのはマナー違反だと家族に伝えています。テーブルの上に貯金箱を置き、置きっぱなしを指摘されたらお金を入れる仕組みです。こどもは10円、親は100円。貯金箱は、家族の中で誰よりも片づけ上手な息子がつくりました。置きっぱなしは、モノの収納場所が行動と合っていないか、しまいにくいというサイン。収納について見直すよいきっかけになっています」

時計やアクセサリーは、家事動線上に収納場所をつくる

「アクセサリー類はクローゼットやドレッサー、洗面所に置くものと思い込んでいる人が多いのでは? 朝は家事が終わって出勤前につける、帰宅後は家事をする前に外すという私の行動パターンに合わせ、ダイニングの収納棚にしまっています。ここはキッチンとリビングの間で、1日に何度も通る便利な場所。収納を考えるときは家事動線を意識するようにしています」

今回教えてもらったのは……

  • 宇津崎せつ子さん
    一級建築士・占術鑑定士。「有限会社 宇津崎せつ子・設計室」代表。住む人の生活と心を考えた「住育の家」をコンセプトに住宅設計を行う。また、努力しなくても誰でも片づけられる独自の収納法を確立し、統計学である家相・風水・気学も取り入れた設計やカウンセリングサービスも人気。現在は京都にある自邸の見学会や、住まい・暮らしの考え方を楽しく学び、交流する場「住育」サロンをオフィスにて定期開催している。

    https://www.madori-plan.com/jyuuikusalon-lp

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